はあ、と盛大な溜息を吐き「いい加減にしろ」とあまり効果の無い言葉を呟くしかなかった
「鯉半の方がはっきりしていたぞ」
突然ふられた言葉にぬらりひょんは意味がわからず首を傾げた
「気づいておらぬわけではなかろう?あやつの態度はどうも曖昧でいかん」
あやつ、というのはリクオの事であろう、ユキの言葉にぬらりひょんは苦笑を漏らした
「しかたあるまい、あれは物心つくときから側におったんじゃ、そう簡単に変えられるものかい」
孫が想いを寄せる相手に不満は無いが、どうしてまた攻略し難い相手を選んだのかと不憫でならなかった
ぬらりひょんは孫の恋の行く末を案じやれやれと肩を落とす
「障害が大きいほど燃えるものじゃぞ」
そなたもそうであったであろう?と、ユキはぬらりひょんの態度にくすくすと笑いながら視線を寄越す
揶揄を含んだその言葉に、ぬらりひょんはぐっと押し黙ってしまった
確かに、人の事は言えねえな
ユキの言葉にも一理あるなとぬらりひょんは苦笑した
「んでおめぇ、何で来たんだ?」
ぬらりひょんはまたしても有耶無耶になりかけた問いかけを再度引き出してきた
ユキはそんなぬらりひょんをちらりと一瞥するとぼそりと呟いた
「つららじゃ」
「あん?」
扇で顔を隠すユキにぬらりひょんは片眉を上げて聞き返す
「つららの為に来たのじゃ」
そう言うとユキはぷいっと横を向いてしまった
てっきりリクオに用があると思っていたぬらりひょんは意外な言葉に目を瞠り、目の前の女をまじまじと見つめた
不躾なその視線にやれやれとユキは溜息を零すと、ぱちんと扇を閉じてぬらりひょんを見据えた
「あの二人、一緒になるには障害が多すぎるのでな・・・・」
「そりゃそうだが・・・・」
と、ぬらりひょんは曖昧に頷きながら、何やら歯切れの悪い物言いをする目の前の女を見遣った。
確かに、主従での恋愛はそれこそ障害がつきものだ、古参の側近達からは「やれ家柄」だの「体裁が」だの難癖はつけられるだろうし、本家の側近達からの嫉妬も考えられる
だがしかし・・・・
この目の前の女がここへ来た今、そんな身の程知らずな事を言う者はいないのではないか?とぬらりひょんは思っている
では、一体何の障害があるのかとぬらりひょんが首を傾げていると
「嫁としての障害じゃ・・・」
ぬらりひょんの視線に気づいたユキがぽつりと呟いた
「ああ・・・」
そういう事か、とぬらりひょんは一人納得する
そして、くすくす笑いながら「そうだな」と女の意見に賛同した
「何が可笑しい?」
「いや、おめぇがそんな事で恥ずかしがるなんてな」
「なっ!」
そんな事は無い!と、ユキは扇で顔を隠しながら、ぬらりひょんの言葉に憤慨した
その後もくくくっと忍び笑いをするぬらりひょんと、扇で顔を隠しぷいっとそっぽを向くユキとの静かな酒盛りは明け方まで続くのだった
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