う〜ん、どうしよう・・・・



リクオは一人胸中で唸っていた

今現在起こっている現象は夢なのでは?と、思わず疑いたくなる

しかし、頭上で繰り広げられるそれは、リクオの鼓膜を刺激しこれは現実なのだと訴えていた



困ったなぁ・・・・



リクオは気づかれないように小さく呟く

先程、理科室につららが入ってきた時、思わず寝たふりをしてしまった

起きたまま、つららが来るのを待っていても良かったのだが



どうせなら起こして貰いたい



そう思ってしまったのだ

実はリクオは密かにこの時間を楽しみにしていた

毎回つららが起こしに来るというこの行為を

何故かつららに起こされると気分が良いのだ



朝、つららに起こされると良い気分で起きられる

これから良い事が起こりそうな、もう起こったような、うきうきとした気分になるのだ

しかも最近こうやって放課後も寝てしまうようになってから、その気分は二倍になった

いや、朝とは少し違う

放課後、誰も居ない教室でつららにだけ起こされるのは、何か特別なような得した気分になるのだ

心の中がほわりと温かくなり、体中が甘く痺れるような、朝とはまた違った気分になる

リクオはその何とも言えない気分を実は楽しみにしていた

だからだろうか、つららが入ってきた途端、体が勝手に動いてしまった

そして、つららが自分を起こすのを息を潜めて待った

ぺたぺたと上履きの鳴る音が近づいてくる



あと少し



つららの気配が色濃くなる

待ち望んでいた声がもう直ぐ聞こえる



『リクオ様〜氷麗です起きて下さい』



そう聞こえてきたらいつものように起きるだけ

そう、それだけ



だったのだが・・・・



聞こえて来た言葉はいつもと違っていた



「リクオくん!!い〜かげん起きたら!?」



至近距離で耳元に囁かれたのはそんな科白だった



・・・・え?



思わず飛び起きそうになったが、そこは何とか堪えた

今起きたら後々大変な事になりそうな予感がしたのだ

しかも、この言い方はカナちゃんの言い方に酷似している

つららの意図が読めなくて混乱していると、リクオが起きないと勘違いしたつららは、何故か嬉しそうに笑いだした

そして、今度は違う人の物マネをしだす



「奴良くん、起き〜や〜滅するで〜」



これは花開院さんの物マネだ



結構上手い



内心で感心していると、今度は巻さんや鳥居さんの物マネまでしてきた

さすがにこれには思わず噴出しそうになってしまった

震えそうになる肩を必死に堪える

つららは何故か女性、しかも清十字団のメンバーの物マネをしている



何かの練習か何かかな?



何かのイベントで披露するつもりなのかとリクオは首を傾げる

全く以ってつららの意図が読めなかった

とりあえず、自分が知っている女の子の物マネをして起こそうとしているようだ

リクオはそう結論付けると、胸中で溜息を吐いた



そんな事しなくてもお前の一言で起きるのに・・・・



リクオは最も聞きたいと思っている言葉を早く聞かせてくればいいのにと心の中で呟く

しかし自分が知っている女の子は殆ど出た

この物マネも、もう終わりだろうとリクオが安堵していると

つららの声が聞こえて来た



「では、とっておきの新ネタを・・・・」



つららの言葉にリクオは固まる



え?まだあるの??



リクオは胸中でつっ込んだ

しかもつららの背後にはヤル気満々のオーラがごごごごっと音を上げて噴き出ている



まだ何が・・・・



知りたいと思う気持ち半分、知りたくないと思う気持ち半分

男心が複雑に揺れた

何故かドキドキとしながらつららの物マネを待つ

そして



「フフフ・・・・奴良リクオ・・・・妾の前で居眠りとはいい度胸じゃ!!目覚めぬか!!」



だらだらだらだら



激似!!



ちらりと盗み見ただけだったが似ていた

声だけじゃなくその顔も!



低い声

冷たい視線

真っ黒な髪



リクオは眉間に皺を寄せて冷や汗を流した



こう来たか!



さすがにこれで起きたら不味いだろうと、リクオは耐えた

耐えて、耐えて、じっと我慢をしていると



「ネタ切れです。リクオ様〜氷麗です、起きてください〜」



ようやくつららの物マネが終わった

「わっ!!つらら来てたんだ!?全然気がつかなかった!!」

すかさずリクオは、驚いた風を装ってがばりと飛び起きた

ようやく起きた主に、つららは嬉しそうに微笑む

その様子にリクオは安堵の息を吐く



早目にネタが切れて良かった・・・・



これ以上続いたら身が持たないと、ぐったりと疲れた精神と体を引き摺りながら、校舎を後にするのであった


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