わはははは、と宴会場は既に出来上がった妖怪達で大いに盛り上がっていた
その上座にはリクオと祖父ぬらりひょんが座り、妖怪達が催す余興を眺めていた
「リクオおめぇも晴れて大人の仲間入りだ、これから色んな事を学んでいかなきゃならねぇ」
色恋沙汰もな、と隣に座るリクオに祖父ぬらりひょんが祝言と称してそんな事をのたまった
訳知り顔で、にやりと笑いながら酒を呷る姿にリクオは固まった
が、それは一瞬の事で笑顔を貼り付け「うんそうだね、ぼくも精進しなきゃ」とぬらりくらりと交わした
そんなリクオを横目にぬらりひょんは嬉しそうに口角を上げると、「そうだな」と喉の奥で笑いながら頷いていた
リクオは平静を装ってはいるが見透かしたようなぬらりひょんに内心はらはらしていた
暗黙の了解とも取れるぬらりひょんの態度ではあるが、いつ口を挟んでくるかわからない
祖父は存外自分に甘く過保護な所がある為、いい縁談などが持ち上がれば烏天狗辺りと一緒になって邪魔をしてくるかもしれなかった
そんな事になったら一大事だとリクオは細心の注意を払っていた
しかし、今日一日の自分はどこか浮き足立っており、心此処にあらずといった感じだった
それもその筈、幼少の頃よりずっと思いを寄せていた相手に今朝想いを告げ、晴れて恋仲へと進展させる事ができたばかりである
成人したとは言ってもまだまだお子様なリクオは、それだけで舞い上がってしまっていた
しかも、いままで押さえていた箍が外れてしまったのか、つららを見ると居ても経ってもいられなくなってしまうのだ
廊下を小走りする姿や、一息ついて額の汗を拭う姿など今まで何万回と見てきた姿だというのにそのどれもがリクオの目には輝いて見えてしまう
しかも、仲の良い側近達と一緒に居る所や仲良く話をしている姿を見るだけで、心の中がそわそわし締め付けられたように胸が痛むのだ
これが独占欲ってやつかな?
リクオは己の胸に手を当てると苦笑した
人間にも妖怪にも分け隔てなく接してきたリクオであったが、つららに対してだけは昔から他の者達と同じ扱いが出来ないでいた
その理由は己自身十分承知しているのだが
そういえば前、つららが襲われた時も「ボクの」て言ってたっけ
捩れ目山での出来事を思い出しリクオはふっと笑った
今も自分の目の前で今日の宴のために忙しなく働いているつららに視線を向ける
酒の乗ったお膳を持ち仲間の妖怪達に振舞う姿を見てちくりと胸が痛んだ
その笑顔もその体も全部自分のものの筈なのに、皆に笑顔を振りまく彼女を見ているとなぜか遠く感じてしまう
今の自分達ではそれは仕方の無い事だと、リクオは自嘲の笑みを零した
雪女は自分の側近だ、いつも傍にいるのが当たり前で
己の傍に居て世話をし護衛をし、日がな一日主のために全力で尽くす彼女
いつまで経っても自分を子ども扱いし、姉のように母のように寄り添う側近
でも、それも今日で仕舞にさせてやる
リクオは自身の胸に手を置いたままうっすらと妖艶に微笑むのだった
[戻る] [短編トップ] [次へ]