「つらら早よう早よう、こっちじゃ」
「ま、待ってください あっ」
まるで少女のようにはしゃぎながらつららに手招きする女は、転びそうになったつららを抱き留めると、にっこりと微笑んだ
「ほんにつららは相変わらずドジじゃのう」
女はつららを見下ろしながら半ば呆れたように苦笑する
「――様が引っ張るからですよ〜」
女の腕の中でつららは口を尖らせながら言う
「つらら、次は何して遊ぶ?」
そんなつららの手を取ると、今度はこちらの部屋じゃと言いながら女が催促する
つららは女の嬉しそうな顔を目を細めて眺めた後「そうですね〜」と言いながら後をついて行った
ふと主の事を思い出す
そういえば何も言わずに来ちゃったけど、リクオ様心配してるかしら・・・
それに今日の夕食当番サボっちゃったし・・・毛倡妓怒ってるわよねきっと
無理矢理連れて来られたとはいえ、何の言伝もしなかったことに今更ながら後悔し溜息を吐いた
今からでも連絡しておいた方がいいかも・・・暫くは帰れそうにないみたいだし
そう考えながら、ここへ連れてきた張本人の女に声をかけた
「あの、――様、家の方に連絡しておきたいのですけど」
みんな心配しているだろうし、と困った素振りでつららは女に言った
つららの意図を読み取った女はにやりと笑うと
「ああ、その事ならもう言伝は済ませてある安心せい」
「ほんとですか!」
「うむ、遣いの者を出しておいたから大丈夫だ」
「良かったぁ〜何も言わないで来ちゃったから心配してたんです」
そう言うと、つららはにっこりと微笑んだ
そうかそうか、と安堵するつららを横目にうんうんと頷きながら女はどこか意味ありげに微笑んでいた


「文が?」
烏の言葉にリクオは眉間に皺を寄せながら聞き返した
「はい、先ほど石礫とともにこれが屋敷に投げ込まれておりました」
そう言って烏が差し出した文を受け取る
その中に書かれていた内容を読んだリクオは先ほど報告に来た三羽烏達を呼んだ
「さっき言ってた事に間違いないか?」
リクオは慎重に烏達に確認する
「はい、夕刻頃雪女は確かにそこの屋敷に続く道を歩いていたそうです しかし突然立ち止まり瞬く間に消えていったと他のカラス達が言っておりました」
しかも気になることが一つ、黒羽丸はリクオに視線を合わせると真剣な面持ちで言葉を続けた
「気になる事?」
「はい、雪女が消える瞬間その周囲が霧のようなものに包まれていたとか」
「霧?」
「はい、ですがその霧何やら妖気を発していたようです」
「妖気を・・・」
黒羽丸の言葉にリクオは押し黙る
「烏天狗、出かける準備を」
「と、申しますと?」
首を捻る烏天狗にリクオは無言で先程の文を渡す
「こ、これは・・・脅迫状ではありませぬか!」
文を持つ手が震えたかと思うと烏天狗はリクオに向かって叫んでいた
「そうだ、売られた喧嘩だ 買わなきゃ男が廃るってもんだぜ」
にやりと笑ったリクオの緋色の瞳が怪しく光る
「つららを取り戻しにいく、行くぜお前達!」
畏の入った羽織を翻しリクオは百鬼を引き連れて闇の中へと消えていった

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