「ん?」
「どうしました?」
お手玉で遊んでいた女がふと出した声に、つららが不思議そうに尋ねてきた
「うむ、客人が来たようじゃ」
女はそう言うとにやりと笑った
「客?」
女の言葉に首を傾げるつららを横目に女はさっと身を翻す
「ど、どこへ行かれるのですか?」
突然立ち上がった女につららは慌てて聞き返した
「うむ、面白い遊びがやって来た つららすまぬが暫くそこに居てたもれ」
艶やかな微笑をその美しい面に称えたまま女はすうっと部屋から出て行ってしまった
「あ、あの・・・!」
慌てて後を追いかけようとしたつららは次の瞬間驚愕した
先程女が出て行ったそこはぴたりと閉じられびくともしなかった
閉じ込められたという状況に信じられないといった表情をしながら、つららは呆然と立ち尽くしていた
某県某所
一年中雪の溶けないと言われるここ
万年雪の霊峰雪山にリクオたち百鬼夜行はいた
長距離を移動してくれた宝船は近くの丘に着陸し今は体力の回復中だ
ヒュオオオオ
冷たい冷気を孕んだ風がリクオの頬を撫でていく
背後では寒さに弱い小妖怪たちが「さむいよ〜」とぶるぶる震えながら泣き言を言っていた
「ここか?」
リクオの視線の先には雪に覆われた大地にぽっかりと空いた洞穴が口を開いて待っていた
懐の文を確認する
つららを攫った相手から指示された場所は確かにここだ
再度目の前の洞穴を見上げたリクオは無言のままその洞穴の中に進んでいった
洞穴の中は外から見たときよりも広く奥まで続いていた
しかもご丁寧に所々に備え付けられた蜀台から蝋燭の炎が灯りリクオ達の足元を照らしている
「用意周到なこった」
意図の読めない相手の行動にリクオが皮肉を零す
暫く歩くと巨大な扉が現われた
「こりゃすげえ」
一匹の小妖怪が感嘆の声を上げる
その扉には二対の竜が描かれており全面金箔貼りの豪華な装飾を施されたものだった
あまりの迫力に後ろを着いて来た百鬼たちはぽかんと口を開けて見上げていた
リクオは何の感情も表さない能面の様な顔で、徐に扉の前に立つと押し開こうと手を伸ばした
しかし重い扉はリクオの力如きではびくともしなかった
「ここは俺にお任せください」
自身の胸板をどんと叩いて青田坊が前に歩み出る
両手をついて押し広げるように青田坊が力を込めると
重い扉はギギギと鈍い音を響かせながら開いた
開いた扉の先は広間になっていた
剥き出しの岩肌
天井からは無数の巨大な氷柱が垂れ下がり
足元には氷の花が地面の割れ目から顔を出していた
溶けない氷の柱が立ち並ぶそこは、無数の蝋燭の炎が反射してキラキラと光り輝いていた
あまりにも見事なその光景に、リクオをはじめ他の百鬼達も言葉を無くしてその場に立ち尽くす
ふと強力な妖気を感じリクオは身構えた
「ほう、妾の妖気に怯まぬか?さすがはあやつの孫じゃな」
くすくすと艶やかな笑い声が辺りに木霊する
巨大な岩の上、氷柱から忽然と姿を現した女は楽しそうにリクオ達を見下ろしていた
白に近い浅葱色の長い髪
陶器のような白い肌
切れ長の瞼の中には良く知る人物と同じ黄金色の螺旋の瞳が覗いていた
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