「お帰りなさいませ、坊ちゃんにお嬢様」

「ただいま〜、つーかその坊ちゃんて言うのいい加減止めろよな」

家に帰るといつものように下僕の妖怪達が出迎えてくれた

しかしその出迎えの言葉を聞いた途端、里伴は仏頂面になる

相変わらず自分達を幼子扱いする側近達が里伴は面白くないらしい

そんな弟を横目で見ながらくすりと微笑むと、六花もまた側近達へと言葉をかけた

「ただいま(みぞれ)(あられ)、それに(ひょう)、私達の留守中変わりは無かった?」

六花はそう言いながら側近の三人へと笑顔を向けた

「はいそれはもう、我ら三人しっかとこの屋敷を守っておりました」

「そうです〜」

「はいな♪」

一番しっかり者の(ひょう)が六花の言葉に答えながら彼女の鞄を受け取る

そしてその鞄を大事そうに胸へと抱えると六花の後に続いた

それに習い(みぞれ)(あられ)も里伴の元に行くと鞄を受け取り――二人どちらが持つか争ったが――彼女らもまた里伴の後へ続いて廊下を歩いて行った



「親父とお袋は?」

長い廊下を歩く途中

里伴が背後でちょこちょこと付いて来る側近へと声をかけた

「はい、お二人はいつものように散歩へ行かれましたです」

「はいな!二人ともラブラブです♪」

「相変わらずあの二人は……」

にこにこと笑顔でそう答える霙と霰に里伴はまたかと溜息を零した

そんな弟に六花はまたしても苦笑する

「あらいいじゃない?仲が良い事になにか不満でもあるの?」

「いやだって、あの二人夫婦何年目だよ?何十年もラブラブって……まあいいんだけどさ〜」

くすくすと苦笑する姉を横目に、何故か里伴は頬を染めるとぶつぶつと愚痴を零しだした

思春期の人間の男の子同様、この弟も年頃のせいか仲の良すぎる自分の親が恥ずかしいらしい

見れば、ぶつぶつと文句を垂れながら口をへの字に曲げていた

「まあいいじゃない、あの二人が仲が良ければ組は安泰なんだから」

「う……そうだけどさぁ」

姉の言葉に弟は言葉に詰まる

この話はもうお終い、と六花が苦笑も露わに首を横へ振ると自室へと続く廊下の曲がり角で突然立ち止まった

「あっ」

「ん?……げっ!!」

突然立ち止まった姉を訝しく思いながら、六花の視線の先を見た里伴は思わず声を上げて仰け反ってしまったのだった

里伴が見た廊下の先には――



仲良く手を繋いで庭を歩く己の父と母の姿が……



しかも恋人繋ぎをし二人の周りには何故かキラキラと光やら花やらが舞っている



そんな姿を目の当たりにしてしまった里伴は青褪めながら頬を引き攣らせていた

「おや、里伴に六花今帰りかい?おかえり」

「おかえりなさい里伴、六花」

「ただいま帰りました、お母様にお父様」

「ただいま……」

笑顔でこちらにやってくる両親に六花は笑顔で、里伴は仏頂面で応えた

「里伴は何故怒っているの?」

不機嫌そうにこちらを見る息子に母が不思議そうに首を傾げる

「ふふふ、里伴も年頃なのよ」

事情を良く知る姉はくすくすと可笑しそうに笑いながら母へと答えた

「ふ〜んそうか、僕にもそんな時期があったなぁ」

ははは、と朗らかに笑いながら母の隣の父が頷くと

「ほんといい加減ソレやめろよな!」

里伴が我慢できないとばかりに人差し指で指差しながらそう言ってきた

里伴の指差す場所――



子供の前だというのに一向に離れる気配の無い二人の手



相変わらず恋人繋ぎをしたままの両親の手を、ぷるぷると震えながら指摘してきたのだった

「ああこれ?いいじゃないか減るもんじゃなし」

「いや、俺のプライドが減る」

そう言って見せ付けるように里伴の目の前にその繋がった手を掲げて見せながら父が笑って言ってきた

それに噛み付くように抗議する里伴

そんな二人を可笑しそうに見ている母と娘

そんな和やかな空気が漂う中で夜の蚊帳は降り始めていた


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