「え?黒が僕に相談?」
リクオが庭で河童にきゅうりを与えていると、神妙な顔をした黒田坊が突然やってきた
しかも相談があるらしい
リクオはその、いつに無い黒田坊の真剣な顔にこれは何かよくない話なのかと勘ぐり、黒田坊と共に自室へと戻って行った
「で、相談ってなに?」
自室に黒田坊を招き入れ、お互い向かいあって座るとリクオは真剣な顔で黒田坊へと聞いてきた
「は、はぁ……それが……」
先ほどの黒田坊のように神妙な顔で聞いてきたリクオとは対照的に
今の黒田坊はというと――
なんとも情けない困り果てた顔をしながらリクオに助けを求めてきたのであった
「それでここまで来ちゃった……と言う訳ですか?」
ひょっこりと建物の影から顔を出しながら、つららは足元に居るリクオへと声をかけてきた
今日のつららはいつもの制服姿とは違い、薄い水色のワンピースを着ている
しかも白地にレースをあしらった帽子と可愛らしいお出かけ用のバックまで持っていた
更に周りを良く見れば、ここは学校ではなく様々なアトラクションがある遊園地だ
しかも今日は日曜日
目の前を数組のカップルが通り過ぎていく
リクオとつららも思春期のカップルよろしくデートかと思いきや
しかし二人は人目を気にするように建物の影に隠れながら辺りをこそこそと窺っていた
「だって、心配だったんだよ……しかも正体ばれちゃったらまずいだろう?」
物陰に隠れたままリクオは先ほどの側近の質問に生真面目にそう答えると、またきょろきょろと辺りを窺いはじめた
「しかし……」
その返答につららは困ったように眉を寄せる
「あっほら、来たよ!」
しかしつららが何か言いかけた言葉は次の瞬間リクオの言葉に遮られてしまった
つららも慌てて主の指した先を見る
リクオが示した通り、その先では待ち人が向こうからやって来ていた
「お待たせしました」
「あ、いや、拙僧……私も今着いたばかりだ」
待ち合わせ特有の言葉を交し合い、出会った男女は恥ずかしそうに下を向き合う
一人は、パステルカラーのフリルチュニックにショートパンツを合わせた黒髪の女の子
そしてもう一人は長い黒髪を後ろで一本に束ね、白のTシャツにパーカーとビンテージジーンズを履いた長身の男性
鳥居夏美と人間の姿に化けた黒田坊がそこに居た
どこからどう見てもカップルに見えるその二人は、お互い頬を染めながら一言二言何かを交し合っている
そんな二人を数メートル離れた場所からリクオとつららはこっそりと覗いていた
「とりあえず、待ち合わせは成功、と……」
リクオはぶつぶつ言いながら懐から取り出した手帳に何かを書き始めた
そんなリクオを上から覗いていたつららは
さすがリクオ様!側近の相談にも手を抜かずここまでおやりになるとは!!
両手を胸の前で合わせ、きらきらと星を飛ばした瞳で主を見つめていた
リクオ至上主義のつららはこんな時でもマイペースだ
そして、何故リクオとつららがこんな所に居るのかというと――
話は昨夜に遡る
「で、鳥居さんに強引に誘われたんだ」
「はい」
行灯だけが灯る薄暗い室内
そこには主と下僕
リクオと黒田坊だけで何やらひそひそと話し合っていた
先ほどのリクオの言葉に黒田坊は頭を下げたまま是と答える
先程相談があるとリクオの元へと来た黒田坊の話はこうだった
先日、リクオと同じ学校に通う鳥居夏美に呼び止められたそうだ
何でも鳥居が妖怪に襲われている所を何度か助けたことがあるらしく
その事を鳥居が覚えていて「あの時のお礼がしたいんです!」と強引にお願いされ、断り切れなかった黒田坊はそのまま彼女の言う通り街をぶらつき
そして、あれよあれよと言う間にどういうわけかデートの約束までしてしまったのだそうだ
「拙僧自身、人間の……しかも女子とどのように接したら良いのか皆目見当がつきません。そこで同じ年頃のリクオ様に助力をお願い致したく……」
畳に頭を擦り付けんばかりの勢いで平伏す黒田坊に、リクオは「まあ、まあ」ととりあえず面を上げさせた
「う〜ん、デートと言っても僕そういうのした事がないしなぁ〜」
「そこを何とか!!」
ずいっと近づき涙ながらに訴えてくる黒田坊に、リクオはがしがしと頭を掻きながらどうしたものかと溜息を吐いた
「よし、じゃあ何とかするよ黒田坊」
「本当ですか!!」
「うん、こんな僕で良かったら」
窮地に追い込まれた側近をリクオが黙って見過ごす筈が無く
笑顔一つで承諾したリクオはその後、黒田坊と共に明け方近くまで何やら話し込んでいるのであった
とまあ、そんなこんなでリクオは黒田坊を心配し、つららを共に引き連れてここまで来たと言う訳なのだが
しかも先ほどからリクオは開いた手帳と睨めっこをしていた
リクオが真剣に覗き込んでいる手帳には――
『黒田坊&鳥居さんのラブラブどきどきデート大作戦』
と銘打った緻密なスケジュールがびっしりと書かれていた
とりあえず、待ち合わせをクリアした黒田坊たちは、さて何処に行こうかと入り口で貰ったパンフレットを広げていた
「あ、ここがいいですここ!」
パンフレットと睨めっこしていた鳥居はそう言うと黒田坊の腕をつついて来た
「どれどれ……ほお、ここか?」
黒田坊は鳥居の指差す場所を覗き込む
二人寄り添い合いながら一つのパンフレットを見る姿は妙に自然だ
「はい!ここでいいですか?」
「ああ、構わないが……」
「じゃあ行きましょう!」
傍から見れば仲の良いカップルがいちゃついている姿とそう変わらない遣り取りに二人は気付かないらしい
鳥居はにこりと笑顔を向けながらそう言うと、まるで親友と一緒に遊びに行く感覚で黒田坊の腕を引き敷地の奥へと進んでくのであった
「なんかいい感じじゃないかな?」
「そうですね」
二人の遣り取りを覗いていたリクオとつららはお互い顔を見合わせながら微笑み合う
まんざらでもない二人を見ていると自然と笑みが零れてしまう
リクオとつららは極力邪魔をしないようにそっと後を付いて行くのであった
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