暫く庭を進んでいると、枝垂桜の側に誰かが佇んでいるのが見えた

その見慣れた白にリクオの足が速まる

「つらら」

リクオは木の幹に手を置いて桜を見上げる彼女に声をかけた

「リクオ様?」

つららは弾かれたように振り向くと目を見開いて声を上げる

「ここは危険だよ」

リクオは言葉の内容とは裏腹に微笑みながら近づいていった

そうしてつららの直ぐ側まで行くと同じように桜を見上げた

「鴆君はこいつのせいじゃないかって言ってたけど……」

「ええ、私もそうは思いません」

リクオの言葉を引き継ぐようにつららが呟くように答えた

「うん、僕もそう思ってたんだ」

「他に何か原因があるのでしょうか?」

桜を見上げたまま呟くつららの顔をリクオは見つめた

そして徐に側にあった手を掴んできた

突然の主の行動に驚いたつららはリクオを振り返る

繋がれた手を見下ろして頬が染まった

「あ、あの……リクオ様」

おろおろと、いつにも増して慌てる彼女に優しい視線を送りながらリクオは口を開いた

「とりあえず、ここは危険だから行こう」

そう言ってつららの手を引いて歩き出してしまった

つららはと言うと、主の手を振り払うことも出来ず引かれるまま後を付いて行くのだった



庭から連れて来られたのはリクオの部屋だった

リクオは自室に入るなり、つららの手を離すと何事も無かったように畳に座った

そしてにっこりと笑顔を向けながら目の前へ座れと催促してきたのだ

その催促につららは頬を染めながら素直に従う

お互い向かい合い見つめ合う

しかしつららは、にこにこと笑顔を向けてくるリクオの視線に耐え切れなくなって下を向いてしまった

「今さらだけど……」

突然リクオがそう言ってきた

その言葉につららはどきりとする

「え?」

何故かどきどきと鳴り始めた心臓の音を聞きながらつららは顔を上げた

「その……」

しかも何故かリクオは言い辛そうに視線を泳がしている



な、何を……



言われるのかと期待半分、否定半分で見つめるつらら

そして

リクオの口から出てきた言葉は



「えと……この前の夜、体調悪かっただろ?もう良くなったのかなって……」



後頭部をぽりぽりと掻きながらどこか恥ずかしげに聞いてくるリクオに、つららは無意識に落胆していた

「あ……え、ええもう大丈夫です」

あはは、と引き攣る笑顔でつららはそう答えた



何考えてるの私ったら



そっか、とほっとしたように頷く主の姿を見ながらつららは胸中で己に叱咤する



変な期待なんかしちゃだめ



そう己の心を叱ると何事も無かったようにリクオに笑顔を向けていた


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