一方リクオはというと
良かったつらら元気になったみたいだ
目の前で元気に笑顔を向けてくるつららに、ほっと安堵の息をついていた
あの夜からまた余所余所しくなってしまったつららをリクオはずっと気にかけていた
やっとまたいつもの様に側に居てもらおうと思っていたのに、急な邪魔が入ってしまった事に実はリクオは落胆していたのだ
あの見合い相手が来てからというもの
何故か自分の側に近寄らなくなってしまったつらら
それに気がついた時リクオはえもいわれぬ不安を覚えた
もう、以前のように側に居てくれなくなるんじゃないかと
もう、あの笑顔が見れなくなるのではと
何故か寂しくなってしまったのだ
自分にとっては彼女が側に居るのは当たり前で
自分の世話を焼いてくれるのが日常で
それがぷつりと無くなってしまった時
取り残されたような気がしてしまった
気がついたら何度も彼女を探していた
屋敷の中でも
学校の中でも
夢の中でも
寝ても覚めても彼女を探す自分に正直驚いた
自分はこんなにも彼女に依存してしまっているんだと改めて気付かされた
そして焦った
こんな事ではダメだと思い、良い機会だからと彼女と距離を置いてみようと思った
そして押しかけ女房よろしく屋敷にやって来たキミヨの我が侭を、そのまま受け入れたのだ
しかし
結果は悲惨だった
キミヨが自分の世話を甲斐甲斐しくしてくれればする程
比べてしまったのだ
あのつららと
キミヨを
”何か違う”と心のどこかでいつも引っかかっているものがあった
何か物足りないような
何処か寂しいような
見合い相手のキミヨには悪いが
つまらないのだ
彼女が一生懸命つららの仕事をこなせばこなすほど
心が無反応になっていった
キミヨの笑顔が
キミヨの気配りが
ありがたいとは思った
しかしそれだけで、他の側近達に思う感情となんら変わりが無かった
ありがとうと心から感謝できる
しかしそれだけだ
これがもしつららだったなら
そう、もし彼女だったなら
僕は悦んでいたに違いない
他のみんながしてくれた時同様、心からありがたいと思い
そして
他の皆がしてくれた時とは違い、心から嬉しいと思ったであろう
キミヨとつららとの違いはコレだった
キミヨには感謝の思いが浮かぶだけだが
つららにはもっとという想いがさらに浮かぶ
もっともっと自分にかまって欲しいと想ってしまう
普段は見せない子供のような我儘が心に芽生えるのだ
立派な主でなければいけない
総大将としてしっかりしていなければいけない
そんな枷から一瞬だけ外れる心
つららと二人きりの時だけそれは起こる
だからキミヨに身の回りの世話を任せていた時、自分は酷く疲れてしまっていた
その様子につららがいち早く気付いてくれた時、凄く嬉しかった
だからキミヨが側に居たあの時ちょっとだけ、我儘を言ってしまったのだ
そしてその我儘は解放されてしまえばもう二度と引っ込んでくれる様子は無くて
リクオはそこまで考えると、目の前で頬を染めながら視線を逸らしているつららへとまた微笑を送った
「あの人……キミヨさんにはちゃんと言わなきゃね」
真っ直ぐに見下ろし、ぽつりと呟いたリクオの言葉につららは顔を上げると首を傾げてきた
そんな可愛らしい仕草に、くすりと苦笑するとリクオは囁くように言った
「うん、僕の世話はやっぱりつららじゃないと何か調子狂っちゃうよ、だからキミヨさんには悪いけどきちんと謝って帰ってもらうことにするから」
リクオは優しい眼差しでつららを見ながらそう言ってまた笑って見せた
その言葉につららは目を瞠る
「じゃ、じゃあ……」
「こんな僕だけど、またよろしくね」
徐々に瞳を潤ませていくつららにリクオは頷きながら答える
その返事につららは今までの暗い顔が嘘のように、ぱあっと表情を明るくさせると今までで一番元気のある声で返事をするのであった
「はい!」
そして、そんな遣り取りがあったリクオの部屋の前では――
「何てこと……早急に手を打たなきゃ」
ぎりっと唇を噛み締めながら般若のような形相をしたキミヨが事の一部始終を聞いていたのだった
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