シャリシャリと音を立てながら嬉しそうに食べるリクオを暫く見ていたつららだったが
「あの、リクオ様?」
いつまでも何も言わないリクオを訝しく思い、意を決して声をかけてみた
しかしリクオはそんなつららに「どうしたの?」という視線を向けるばかり
確か我が主は「側近頭と重要な話がある」と言っていたはず
何かあったのかと心配しながらリクオの言葉を待っていたのだが
一向にしゃべる気配が無い
どうしたのかと主の返事を待っていたつららに、リクオはやっと口を開いた
「つらら」
「はい」
「お茶頂戴」
「へ?」
来た!と身構えたつららは、リクオの言葉に思わず素っ頓狂な声を上げてしまった
「これ食べたら喉が渇いちゃった」
しかし屈託無く笑いながらそうお願いしてくる主に、つららは戸惑いながらも「お、お待ち下さい」と言って急いで台所へと向かった
そして急いで冷めかけたいつもの茶を持ってくると、リクオは嬉しそうにごくごくと飲み干し「あ〜やっぱりこれだよね〜」と笑顔で言いながらまたレモンをかじり始めてしまった
『重要な話』を期待していたつららはリクオの行動に拍子抜けする
一体主は何をお考えなのだろうと、つららの頭の中はハテナで一杯だった
暫くの間主の様子を見守っていると、「つららも食べなよ」と重箱の中身を勧められた
つららは一瞬躊躇ったが、おいしそうに食べる主に習い一つ摘んで口に入れた
甘酸っぱい香りが鼻腔に広がる
甘くて、酸っぱくて、ちょっぴり苦い味が、口の中を刺激した
最近知った自分の想いみたいだとつららは思った
そしてその想い人をちらりと見遣る
彼はおいしそうにレモンを食べていた
益々主の意図が判らなくなってつららは途方に暮れる
どうしたものかと視線を巡らせていると
先ほどキミヨが持っていたシャツが目に入った
まだ途中だったのだろう、取れかけたボタンがそのままになっていた
ぼんやりとそれを眺めていると、リクオが声をかけてきた
「それ、彼女がやろうとしてたんだけど、暫くここへは戻って来れないようだから、つららが直しておいてよ」
その言葉につららは弾かれたように主の顔を見上げた
確か主は彼女を無理矢理退室させたはず
すぐにでも戻って来たいというような顔を彼女はしていた
自分がこの部屋を出ればきっと彼女は直ぐ戻ってくるであろう
しかし主が言った言葉は「暫くここへは戻ってこない」だった
主の意図がだんだんと理解してきたつららは、緩みそうになる口元に慌てた
思わず綻んでしまいそうになるその顔を無理矢理引き締めた
そして――
「はい、喜んで」
つららは元気良く頷くと、感情を隠しきれないその仕草でリクオのシャツを手に取るのだった
二人が部屋に篭ってから数刻
あの側近頭とか言う女はまだリクオの部屋に居た
「なんで……」
ぎりっと唇を強く噛む
リクオ本人から退室を願われて渋々出てきたものの……
中の様子が気になって、キミヨは部屋から少し離れた廊下の角から、ずっとあの女が出てくるのを見張っていた
しかし、待てども待てどもあの女が出てくる様子は無い
しかも、部屋の中からは愉しげな笑い声が時折聞こえてくるのだ
キミヨは焦った
「やはりあの女……」
キミヨは忌々しげに呟くと、じっとリクオの部屋を監視し続けるのであった
[戻る] [アンケトップ] [次へ]