どたどたどたどた
どすどすどすどす
怒りを足音で表しながらリクオは自室へ向かっていた
「なんだい、なんだい、雪女なんか!」
足音だけでは治まり切らない怒りが喉をついて口から零れた
今日は僕の誕生日
朝から下僕の妖怪達がひっきりなしに僕の部屋を訪れては誕生日プレゼントを渡してくれた
でも、その下僕達の中に雪女の姿はなかった
いつもならイの一番で僕の元に駆けつけてくる雪女がだ
しかも朝の起床はいつも雪女の役目だったのに何故か今日は毛倡妓だった……
なんで?
どうして?
リクオは居ても経ってもいられなくなって雪女を求めて屋敷中を探した
雪女の部屋はもちろん
台所や居間
風呂場や厠まで
もしかしたら昨日仕掛けた罠に掛かってるんじゃないかと庭も探した
でもいなかった
散々探し回って疲れ果て廊下で叫んでいた所へ首無が来てくれたのだが
その首無から聞いたのはリクオにとっては酷くショックな内容だった
なんでよりによって今日出かけてるんだよ!
リクオは胸中でここには居ない側近へ悪態を吐くと、部屋の襖をがらりと開けて畳の上へごろりと寝転んだ
そしてまたぷうっと頬を膨らませる
「なんで居ないんだよ……」
そしてぽつりと呟いた
その声は寂しそうに震えている
そして、ぼんやりと天上を眺めながらリクオは胸中で考え始めた
雪女、僕の誕生日忘れちゃってるのかな?
それとも昨日、落とし穴に落っことした事まだ怒ってるのかな?
用事って一体何なんだよ?それは僕より大切な事なの?
今日は、今日は僕の誕生日だったのに
この間「盛大にお祝いしましょうね」なんて言ってたくせに
うそつき
うそつき
うそつき〜〜
胸中で絶叫するリクオの瞳からぽろりと涙が零れた
リクオは声も上げず暫くの間流れる涙もそのままに天上を見上げていた
途中、小妖怪達が遊ぼうと誘いに来たがそれでもリクオは返事もせずにただ黙って天井を見上げていた
そんなリクオを小妖怪達は訝しみながら、すごすごと退散していく
そしてそうしている内にリクオの元から小さな寝息が聴こえてきた
「ん……」
ぼんやりと目を開けると見慣れた天上が見えた
眠いまなこをごしごしと擦りながらリクオはむくりと起き上がる
どうやら泣き疲れて眠ってしまったらしい
辺りをきょろきょろと窺うとリクオは立ち上がった
そして部屋の襖を開けると廊下へ出た
廊下に出ると庭の池に河童がいるのが見えた
河童は気持ち良さそうにすい〜と池を泳いでいる
リクオは下駄を履いて庭へ降りると河童の元へ向かった
「ねえ、雪女帰ってきた?」
「雪女ですか?」
「うん」
「……まだ帰ってないみたいですよ」
河童はちらりと空の太陽を見上げると、少し戸惑うようなそんな素振りを見せながら首を横へと振ってみせた
その言葉にリクオはまたしょんぼりと項垂れる
「あ、そうだ!リクオ様これ」
河童はそんなリクオを見ながら思い出したように言うと、緑の包装紙に包まれたプレゼントの箱を差し出してきた
「ありがとう」
リクオはそれをじっと見つめながら力なく礼を言う
そしてその箱を持ちながらとぼとぼと歩いていってしまった
「ふぅ……リクオ様なんか可哀想だなぁ。早くすればいいのに」
哀愁を漂わせたリクオの背中を見送りながら河童はぽつりと呟くのだった
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