枝垂桜によじ登りぼんやりとリクオが空を眺めていると

「ん?」

何やら甘い香りが漂ってきた

くんくんと鼻をひくつかせ匂いの元を捜す

その香りはどうやら大広間から流れてくるらしかった

リクオは枝垂桜の木に登ったまま不思議そうに首を傾げる

するとそこへ、探していた張本人がやってきた

ぱたぱたと嬉しそうに廊下を走る雪女

リクオは一瞬その姿を見つけて喜んだが、しかし直ぐに桜の木に身を隠してしまった



なんだい雪女なんか、今頃来たって遅いんだぞ!



リクオは膝を抱えて小さく丸くなりながら胸中であかんベーをした

雪女も少しは僕の事心配すればいいんだと口をへの字に曲げる

完全にへその曲がった幼子は必死で自分を探す雪女の姿を見て、いい気味だと胸中で呟いていた

「リクオ様〜若様〜、どこに行ってしまったのかしら?リクオ様〜」

おろおろしながら雪女は必死で自分を探していた



僕の部屋

居間や台所

風呂場や厠まで

そしてあらゆる所を探しているうちにとうとう庭までやってきた



僕は息を潜めて雪女がこちらへやって来るのを見ていた

枝垂桜の根元まで雪女はやって来ると

「はぁ、リクオ様きっと怒ってるのね……私がいけなんだわちゃんとお話していれば……」

雪女は枝垂桜の幹に手を付きながら深い溜息を吐いていた

「ごめんなさいリクオ様」

そして悲しそうな泣きそうな声でそう呟いた時



ダンッ



「きゃっ」

僕は枝垂桜から飛び降りた

雪女の目の前に急に出てきた僕に彼女は驚いて悲鳴を上げた

その驚いた顔を見て僕はしてやった!とちょっとだけ機嫌が直ってきた

「なんだよ僕を探してたんじゃないのか?」

僕はちょっぴり意地悪な声でそう言ってやった

その途端

「リクオ様!」

雪女は何故か嬉しそうに笑顔になると僕の名を呼んできた

「もぅ、探しましたよ」

「はぁ?それはこっちの台詞」

「え?」

「う……な、なんでもない!!」

僕は慌てて口を両手で塞ぐとぷるぷると顔を横に振った

雪女はそんな僕を訝しそうに首を傾げて見ていたけど

次の瞬間手をぽんと合わせると「そうでした!」と嬉しそうに僕の顔を見下ろしてきた

「そうでした、リクオ様こっち来てください!」

「え?なんだよ急に」

こっちこっちと僕の手を取ると嬉しそうに何処かへ連れて行こうとする

僕はまだまだ怒っているんだぞ、と「何だよ、もう」とブツブツ言いながらほっぺを膨らませたまま雪女に引かれるまま歩いて行った


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