「つらら・・・大丈夫?」
「は、はい・・・何とか」
買い物に行く道で、二人はゆっくりと午後遅い時間を歩んでいた。遅い時間といってもまだ夕暮れには程遠く、そしてやはりまだ8月。気温は、雪女にとっては少々辛いものだった。行くと言って聞かない彼女は今、手袋に長袖長ズボン、おまけに日傘をさしている。最も、最近は日焼けを気にしてそのような格好をする者も多いので、最初にリクオが懸念したよりも目立つことはなかった。
それでも、歩くつららは見るからに辛そうだった。ようやく、二人してエアコンの効いたデパートに転がり込むと、つららだけでなくリクオもほっと息をついた。
「やっと、着きました・・・」
「つらら。命令。次からは、夏の買い出しは他の者に代わってもらって。絶対だよ、もし必要なら僕からも一言言うから」
流れ落ちる汗を拭いながら、二人は視線を交わし合った。
「でも・・・お仕事ですし」
「それなら家の中の仕事のシフトを増やせばいいだろ?皆も鬼じゃないんだから・・・いや鬼だけど」
とにかく、とリクオは少し強い口調になって言う。
「もしつららが、またこんな炎天下を歩くことになったら、僕が、気がかりで仕方がないんだ。これからは、絶対に、代わってもらって」
一瞬、つららはその言葉にぽかん、として・・・次の瞬間には、みるみる頬を染め上げた。
「あ・・・リクオ様、もしかして、私のこと・・・心配して、下さってるんですか?」
頬を染め、上目遣いで見つめてくるつららは、リクオから見てもとてつもなく女の子らしくて、どうしようもなく可愛かった。その暴力的とまで言える可愛らしさに、リクオは炎天下を歩く中で忘れていた感情を思い出し、慌てて顔をつららから背けた。自分も、頬に血の気が集中しているのが分かった。
(やばい・・・つららって、ずっとこんな感じだったっけ)
思い出そうとしてもできなかったが、それでも頭の中では半ば以上、これが自分の感情の変化に起因するものだということを、リクオは承知していた。
「と、とにかく・・・とっとと買い物済ませて、ちょっと喫茶店か何かで休もう。夕暮れになれば、少しはマシになるだろ」
そう言って、リクオは足早に目的の店に向って歩き出したのだった。つららと普段、どれくらいの距離で歩いていたっけ、なんて考えながら。
「あ、リクオ様・・・」
歩きだしたリクオの背を追って、つららはまだだるさを訴えてくる体を叱咤し歩きだした。こちらを見ない主に、少し不安になる。
(ちょっと、うざかったかな・・・)
消沈した気持ちで、そう考える。急に舞い上がった気持ちは、落ちるのも早かった。
(チャンスだと、思ったのにな・・・やっぱり、こんな炎天下に引っ張り出されて不機嫌なのかも)
そんなことを考えながら、先を歩くリクオの背を見つめた。
最初、付いて行くと言われた時、ドキッとした。
(え・・・これって、もしかしてデート?!)
なんて考え舞い上がり、無理してここまで来てしまったのだが、よく考えれば別にこれまでも、一緒に買い物に行くことはあった。要は、つららの気の持ちようが変わっただけのことだ。
しかし、それならそれ。自分の気持ちに気付いたなら、積極的にもなれる。昨晩の決意をさっそく実行しようとしているつららだった。
(とにかく・・・この買い物で、女の子っぽさをアピールしなきゃ!)
そう思い、つららはぐっと拳を握り、決意を固めたのだった。
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