その後、二人はまず文房具店に行って、シャープペンの芯とその他の文房具を買い。
食料品売り場に行って、つららがリクオに野菜の選び方を教えつつ、夕飯のリクエストを聞いて。
あっという間に買い物は終わって、二人はデパート内にある喫茶店に向い歩いていた。
終始、リクオはつららにどこかぎこちなく、つららもその訳を尋ねられずにいた。今は至って無言で、二人は歩いている。
(うう〜、私、何か変だったかな?それを、リクオ様も悟って、変に思ってる・・・?)
(あ、それともひょっとして・・・昨晩、私変な寝言を言ったとか?それともそれとも、ひょっとしてあのおでこへのキスのとき起きてたとか?どうしよう・・・)
途端に、つららは泣きだしそうになった。
もし、この想いがリクオに知れて。
そして、拒絶されてしまったあげくに、嫌われたら・・・?
姉の様な存在なのに、気持ち悪いと思われたら・・・?
(私、生きていけないかも・・・)
本気で、そう思う。
でも、今泣いて、それをリクオに悟られるわけにはいかなかった。こんな往来で、そんな目立つこと、彼は嫌うだろう。だから、つららはぐ、と唇を噛み締め耐えた。
―――自覚した恋心が、こんなに辛いなんて、知らなかった・・・
涙を流せぬつららは、切ない視線を、彼の背中に向けた。苦しいです、と心の中でそっと、呟き訴える。
そんな思いに、彼は気付くこともなかろうと、そう思っていた時・・・その彼が、ふ、と立ち止った。
「・・・リクオ様?」
一瞬、自分が泣きそうな顔をしていたことを悟られたのかと思ったが、その様子を見るとどうも違うらしい。ある店の店頭に置いてある品を見ているようだ。何とか気持ちを押し堪えて、無理に明るい声を出してつららはリクオに近付いた。
「どうされたんですか、リクオ様?何か欲しいものでもありました?」
500円以内ならいいですよー、などと言って彼の見ているものを覗きこむと、そこには色取りどりのシルバーアクセサリーがずらりと並んでいた。どれも精巧な作りで、主にはシルバーなのだが、要所要所に嵌めこまれた色ガラスが目を引き付ける。
「うわぁ・・・綺麗」
思わず、つららは呟いていた。リクオは、側に来たつららを見て尋ねた。
「つららも、こういうの好きなの?」
「ええ。そりゃ、これでも女ですもの。綺麗な装飾品は好きですよ。ああ、でも・・・」
意外と、さらりと自分が女だとリクオに言えた事に内心驚きつつも、つららはふとそこで何気なく、付けたした。
「好きな殿方からもらえたら、私は何だって嬉しいですけど」
リクオの体が、ぴく、と一瞬動き、そこで止まった気がした。少し間を開けて、リクオが尋ねる。
「つらら・・・好きなやつ、いるの?」
「え・・・」
目を見開いて・・・つららの頬が、みるみる赤く染まった。同時に、しまったとも、思う。そのような質問を自分から誘った上に、これでは「いる」と答えているようなものだ。
しかし、まだリクオに自分の気持ちを告げる時ではない。
そう思ったつららは、ただ頬を染めたまま、じっと俯いていることしかできなかった。
「ふーん・・・」
リクオはそんなつららをしばらく見ていたが、ふとおもむろに一つのシルバーアクセサリーのブローチを取り出すと、つららにあてがった。
「悪くないけど・・・ちょっと派手かな」
「リ、リクオ様?!」
驚いてつららがリクオを見ると、リクオの顔は至って真面目だった。う〜ん、と首を捻ると、また別のアクセサリーを見始める。そのとき、ふと置いてあったカフスが目に付いて、思わずつららもリクオの腕にそれを宛がっていた。
「つらら?!」
「うーん・・・悪くないですかね」
その後は、まるで競うように、いろいろなアクセサリーを二人で試し合った。似合うものもあったし似合わないものもあったが、それを互いに批評し合い、気付けば二人とも笑顔になっていた。
思う存分に笑って、楽しんで、時を過ごした。そして、気が付けば、時刻は夕暮れになっていたのだった。
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