上弦の月
昨夜に引き続き、リクオは何を思ったのか二日連続でつららに夜這いを仕掛けようとしていた
今夜はあの小煩いお目付け役達がそろいも揃って所用で出かけていたのだ
これを好機と取ったリクオは早速つららの元へと赴こうとした
のだが――
そう簡単に行くほど世の中は甘くはなかった
長年リクオの身の回りの世話をしていた首無も抜かりが無かった
悪戯小僧の考えることなど全てお見通しである
あろうことか、リクオのお目付け役でもある鴉に協力を求めていたらしい
故に、つららの部屋に辿り着くまでに何度も妨害にあった
第一トラップ――牛頭丸&馬頭丸
そろりと自室の襖を開けた所に奴らは居た
ドスッ
「うおっ?あっぶねぇ〜」
上空から突然降ってきた牛頭丸を寸での所で交わし、廊下に突き刺さったものを見て冷や汗を流した
暗い闇夜にきらりと光るそれは、紛れも無く牛頭丸の愛刀
廊下に深く突き刺さっている所を見ると奴は本気だ
「てめぇ、邪魔すんな!」
「は?行かせるかよ!」
ギイン
刃と刃がぶつかり合う音が響く
「ちょっとちょっと牛頭丸やり過ぎだよ〜」
そこへ馬頭丸が止めに入ったのだが・・・・
「お前はすっこんでろ!」
「ぎゃあ〜〜〜〜〜」
早々に理性の切れた牛頭丸に空の彼方へと吹き飛ばされてしまった
馬頭丸強制的に戦闘離脱
「おい・・・」
お前それはあんまりだろう、とリクオはジト目で牛頭丸を見据える
「るせえっ!邪魔する奴は敵だ!」
牛頭丸はそう叫ぶと刀を一閃させた
ふわりと目の前のリクオの輪郭が揺らめく
手ごたえが無い
鏡花水月だ
認識をずらすリクオの畏れ
「くそっ!」
牛頭丸は舌打ちしながらそれならば、と闇雲に刀を振るった
「お、おいっ!くそっ・・・こんのっ!」
ひゅん ひゅん とでたらめな剣さばきのように見えるが、実のところギリギリの所でリクオの体を掠めていた
実は見えてんじゃねえのか?と思いたくなるほどの確立でである
さすがは牛鬼組若頭と言ったところか?
腕も去る事ながら、その情念は鬼気迫るものがあった
さすがは恋敵
「てめぇ〜邪魔すんなっ!」
「うるせえ!大人しく寝てろ!!」
「この・・・横恋慕すんじゃねえよ!」
「なっ・・・何が横恋慕だ!こいつは頼まれたから仕方なく・・・」
「はっ、つららに想いを寄せてることなんざとっくにお見通しなんだよ!お前」
こんな事に首をつっ込むのが証拠じゃねえか!と一気に捲くし立ててやると、牛頭丸は「ぐっ」と言葉に詰まった
一瞬怯んだ隙をついて牛頭丸を壁際に追い詰める
首筋に弥々切丸を突きつけると怒気を孕んだ声で言ってやった
「人の恋路を邪魔すんじゃねえよ、そういやお前つららの事を散々苛めてくれてたよなあ?お礼に稽古つけてやろうか?ん?」
にやりと口角を上げながら余裕の表情を見せ付けてやると、牛頭丸は悔しそうに睨みつけてきた
「て、めえ!!」
「ふっ、俺に喧嘩売ろうなんざ百万年早いんだよ!!」
ドカッ ひゅうぅぅぅーーーーーーーん
牛頭丸、空のお星様になる
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