第五トラップ――鴆
「お?リクオそんなに急いで何処行くんだ?」
逢引か?と冷やかし半分、通りかかった鴆が声を掛けてきた
雪女の部屋まで、あとはこの角を曲がるだけ
リクオは逸る気持ちを抑えて義兄弟である鴆の前に立ち止まった
「お前もか?」
「は?なんの事だ?」
警戒しながら言うリクオに鴆は何の事だと首を傾げた
「今日はおめえん所の小妖怪が腹痛だって連絡があってよそんで診察に来たんだ、まあ大した事無かったから良かったけどな」
「違うのか」
かかかか、と笑う鴆にリクオは安堵の息を吐く
「それより、お前こそどうしたんだこんな夜更けに?血相変えてどこ行くんだ?出入りか?じゃあ俺も・・・」
「いやつららの所だ」
「は?なんでまた・・・ははぁん、お前もとうとう・・・んじゃあこれやるよ」
と鴆はリクオの言葉にピンと来たらしく、したり顔で言いながら袖の中をゴソゴソ探し始めた
あったあった、と言いながらそこから取り出した小瓶をリクオに持たせる
「何だコレ?」
「精力増強剤だ、ま、がんばれよ」
そう言って鴆は片目を瞑りながらリクオの肩をポンと叩いてにやりと笑うと
「リクオもそんな年になったか〜月日の巡るのは早いもんだねぇ〜」
今夜は祝い酒だ♪と鼻歌よろしく「がんばれよ〜」と片手を上げて去って行った
「・・・・・・」
リクオは鴆に渡された小瓶を無言で見つめていたが、キュポンと徐に栓を抜くと
ゴキュ ゴキュ ゴキュ
と一気に飲み干した
「さ〜てエネルギー充填!あと少しだ!」
口元を拭い片腕をブンブン回しながらきりっと顔を引き締めると、もの凄い速さで目の前の角を曲がって行った
つららの部屋到着まであと数メートル
第六トラップ――毛倡妓
「お前が最後か?」
「リクオ様、お待ちしておりました」
つららの部屋の前に立ち塞がる様に立っていた毛倡妓は、妖艶に微笑むとリクオに向き直った
くそっ、首無め最後に厄介なやつ置いていきやがって!
勝ち誇った首無の高笑いが聞こえてきそうだ
目の前の女に舌打ちしつつ、今回の首謀者に胸中で毒づいた
自分の側近、しかも女と来ればリクオも少しばかり気が引けてしまう
そんなリクオの性質を知っていてこんなことをする首無はあっぱれというか
我が側近にしてなかなかどうして見所あるな
と焦る頭の片隅でここには居ない側近を賞賛する
しかし事態は良くなるわけでもなく、リクオは忌々しそうに舌打ちした
「そこを退け、やりたかないが邪魔する場合は・・・」
「はいどうぞ♪」
毛倡妓は蕩ける様な笑顔を向けながら、すっと部屋の前から退いた
「へ?」
「あと邪魔な残りの妖怪達は私が片付けておきましたから♪」
呆気に取られるリクオに、毛倡妓はそう言って「どうぞ」と片手を部屋の入り口へと向けて催促した
「お、おう」
リクオは襟元を正すと、背筋を伸ばし誘われるままつららの部屋の前へ立つ
首無、お前最後の人選間違えたな・・・・
勝った!とリクオは内心ほくそ笑みながらゆっくりと部屋の中へと入って行く
「ごゆっくり〜♪」
毛倡妓はそう言うと、にこにこしながらパタンとリクオの消えていった襖を静かに閉めた
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