「―というわけで、今日はこれでしめぇだ」



リクオは会議の締めを宣言すると、だるそうに腰を上げた。

長引く会議に疲れきった貸元達は口々にため息を漏らして身体を崩す。



「・・・と、猩影。ちっとこい」



突然指名された猩影は、一度気を抜いた身体に緊張を走らす。

無表情で頷くと、その背中に続いた。



猩影がリクオの自室へ通されるのは随分久しぶりのことだ。

彼の背に一抹の緊張が駆け抜ける。



「まぁ座りな」



そう言って促すと、リクオはどっかと腰を下ろした。



「は、はい・・・で、一体なんでしょうか?」

「最近どうなんだ?・・・組の方は」

「え、・・順調に復興しております。散り散りになった者達も続々と戻ってきてますし」



固くそう報告すると、ちらりと総大将へ見やる。



「ほう・・・そりゃよかったじゃねぇか」

「はい・・・」



あっさり会話が切れてしまう。

目の前の彼が何故自分を呼び出したのか、さっぱり分からなかった。

何を考えているかわからない―

それが彼の専売特許みたいなもの。



しかし、まさかそんな他愛の無い話のためだけに呼ばれたのではないことだけは分かる。

それは射抜かれそうな鋭い眼光だけで伺えた。



「おめぇ・・・好き、だろ?」

「はい?」



一瞬、何のことだか分からなかった。

しかし、その睨みつけるような眼差しでなんとなく理解する。

先程から浴びせられる視線の意を解した。



「分かってんだろうか・・・うちの側近が、だ」

「・・・っ」



一寸の狂いもなく射抜かれたその言葉。

分かってはいたが―

あまりに図星を突くので思わず動揺に顔を歪ませてしまう。



その正直な反応に、リクオはさらに目を細めて問い立てる。



「滅多なことはしないほうがいいぜ・・」



その表情は決して仲間に向けられるものではない。

悪鬼でも見るようなその険しい顔。

薄暗い部屋に揺れる、紅く燃え滾るような眼光。



そう― 彼は自分を敵と見ている。

猩影は身を震わせた。



「あら?電気もおつけにならないで何を・・・」



そんな戦慄漂う空間に似つかわしくない、明るい声音。



「氷麗の姐さん・・」

「あら、猩影君?・・・リクオ様どうされたのですか?そんな怖い顔されて・・・」



つららはリクオのただならぬ剣幕にびくっと震える。



「あぁつらら、なんでもねぇよ」

「お話の最中でしたら私、下がりますね」

「あ、待ってください姐さん―」



思わず止めてしまう。

そうしてから、しまったと思った。



その瞬間―



背後に冷たい戦慄が走って振り返れば、立ち上がったリクオが無表情で腰のドスに手をかけ、ギラリと僅かに刀身を光らせている。



「さ、三代目・・・?」



その今にも抜き放たれそうな刀身から目が離せない。



「り、リクオ様・・・何を・・・」



見れば、つららがへたりと腰を落として目を見開いている。



リクオは何も言わず静かにそれを収めた。



「いやなんでもない・・・もう終わるところだったんだ。つららは酌の準備でも頼む」



そう言うとリクオは猩影をちらりと見やる。

さっさとついてこい・・・

そう言っているようだった。







廊下を歩く彼の足は不自然なほどに静かだ。



「猩影」

「は、はい」

「俺だって人の血の通った妖怪だ・・・」

「・・・?」

「血が昇れば、何するか・・・わからねぇからな?」

「・・・・っ!」



一見穏やかな彼の口調に顔を上げて見れば、先程のような鋭い眼光がこちらを見ていた。







「あ、おかえりなさいリクオ様―」

「おう」

「あ、あの・・・先程は一体・・」

「どうもしてねぇよ。気にすんな」

「で、でも・・・」

「んなことより、酌してくれねぇのかい?無性に飲みてぇ気分なんだ」

「あ、はい・・」



つららは納得がいかないような顔をしながらも、徳利を傾ける。

こうなった主はいくら聞いても無駄だろう―

経験上、嫌というほどそう分かっている彼女はそれ以上何も聞きはしなかった。


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