つららは自分の自信作を満足げに見つめていた

色、艶どちらとも申し分ない

文字も綺麗に書けた

よし、これをリクオ様のにしよう!とつららは早速ラッピングに取り掛かった

そして、嬉々として出来上がったチョコレートを包んでいくつららの側には



失敗して形の崩れたもの

文字が歪んでしまったもの

凍ってしまっているもの



いろんな意味での残念な出来上がりのハート型のチョコが何十個も積み重なっていた

もちろんこのどれもが、先程完成した一個を作るための屍の山なのだが・・・・

先程毛倡妓が言った「雪女なのに・・・・」というのはこの意味を含んでいたのだ



雪女

氷の化身の雪女

冷たいものや氷らせることに関しては右に出る者は無く

しかし

熱いものや温める物にはとんと苦手な妖怪である



もちろん、このチョコレート作りも例に漏れず、この一個を作るまでには長い道のりがあった



チョコを溶かそうと思えば、湯気の上がるお湯の中にチョコレートをぶち込み

湯銭でゆっくりかき混ぜようと思えば、あまりの熱さでへらを振り回し

型に流そうと思えば、鍋ごと型に入れてしまう



などなど、ありとあらゆる苦難があった

始終きゃーきゃー騒ぎながらもやっと完成した一個

それを丁寧に色とりどりの包装紙で包んでいくつららは

もう



幸せそうだった



そんなつららを横目で見ながら毛倡妓をはじめ女衆たちは



今回は面白いことが起こるかも♪



とこっそりと胸中で呟いていた



リクオはその場で呻っていた

う〜んと声が聞こえてきそうな位それは必死に

先程台所から甘い匂いがしてきたので、つられて覗きに行ってみれば、女衆が集まって菓子を作っていた

菓子の材料を見て、「ああ、明日の準備か」と一人納得していたリクオは、次の瞬間聞こえてきた声に動きを止めた



「ええ、あの方の為ですもの、がんばりました♪」

「うふふ、つららったら大胆なんじゃない?」

「え?そ、そうかしら?」

「そうそう、本命って思いっきり書いてあるようなものよ」

「くすくす、この意味分かってるの?」



それは紛れもないつららの声で、しかも女衆たちの言葉をまとめると、どうやらつららは今回本命にチョコを贈ろうとしているようだった

リクオはその本命チョコの名前を確認しようと、見つからないギリギリの位置まで顔を覗きこませた

しかし、黒い人だかりとなったつららの周囲には隙間と言う隙間は無く、結局その文字はここからでは見えず

何とかして確認しようと更に身を乗り出したリクオの背後から突然声がかけられた

「どうしたのリクオ?」

「うわっ」

思わず振り返った先には実の母――若菜が居た

若菜は不思議そうに息子を見下ろしながら首を傾げていた

「どうしたのリクオ?中に何か用なの?」

「い、いや何でもないよ!」

「あ、リクオ」

リクオはそう言って誤魔化すと、若菜の声を背に一目散にその場から逃げて行った

「どうしたのかしらあの子?」

若菜が意味が解らないと首を傾げる背後では、女衆たちが楽しそうに話に花を咲かせていた


[戻る] [記念文トップ] [次へ]