「馬頭丸、馬頭丸!」

暫くぼんやりと空を眺めていると遠くからばたばたと廊下を駆けてくる慌しい音が聞こえてきた

続いて自分の名を呼ばれ馬頭丸は定位置のしだれ桜の枝の間からひょっこりと顔を出した

「どうしたの首無?」

「おお、そこにいたか、出来たぞアレが!」

首無はそう言ってにこりと笑った

馬頭丸はそれを聞いて急いで木から飛び降りる

首には相変わらずつららがぶら下がっていた

「出来たって本当!?」

馬頭丸は明るい声で首無に駆け寄る

「ああ」

首無は今度こそ大丈夫だと力強く頷いた



「で、これを飲ませればつららは元に戻るんだね?」

リクオをはじめ、馬頭丸やつらら、首無など、その他大勢の妖怪達が広間に集まっていた

リクオの目の前に置かれたのは小さな湯飲みに入った青色の液体だった

妖怪達は皆、その液体をじっと見つめていた

「はい」

首無は力強く首を縦に振る

その返事にリクオは確信を得たのか少しだけ表情を柔らかくした

実はつららの夜這いの事もあり、首無は早く元に戻す方法を探してくれていた

蔵の文献を読み漁り昨日やっと、前に見つけた文献と対になる文献を見つけ、恋慕の秘薬の解毒剤がある事を発見した

すぐに鴆を呼び寄せ薬の調合をしてもらったのが昨夜

先程やっと出来上がった薬を持ってきたところだった

他の妖怪達はやれやれと一安心していた

「じゃあ。つらら」

リクオは湯飲みを手に取ると、つららの方へ差し出す

しかしつららはぷいっとそっぽを向いてリクオの差し出した湯飲みを拒絶した

その途端、くしゃりと顔を歪ませるリクオ

馬頭丸は慌ててその湯飲みを受け取ると、つららに差し出した

「雪女、これ飲んで」

「馬頭丸様がそう言うなら」

馬頭丸の手を取るように湯飲みを受け取りながらうっとりとつららが見上げてくる

その表情に「うっ」と冷や汗を垂らしながら「早く飲んで」と急かした

つららは皆が見守る中、ゆっくりと湯飲みに口をつけていく

こくこくと喉に青い液体が流し込まれるのを、リクオと馬頭丸は固唾を飲んで見守っていた

暫くして全部飲み終わったつららはふうっと息を吐いたかと思うと、突然湯飲みを落とし袖で口元を覆い苦悶の表情を浮かべた

「つ、つららどうしたの?」

「雪女?」

慌てた一同は心配そうにつららを覗き見る

苦しそうに呻いていたつららだったが、暫くすると落ち着きゆっくりと瞼を開いた

「あれ、皆どうしたの?」

目の前に心配そうに自分を覗き込む仲間達につららは目をぱちくりとさせながら首を傾げた

「はぁ〜、雪女やっと正気に戻ったんだね〜」

馬頭丸はほっと胸を撫で下ろしながらつららに言う

「え、め、馬頭丸?」

至近距離から聞こえてきた馬頭丸の声に、つららは驚きながら隣に振り返ったつららは固まった

馬頭丸がすぐ側にいたからだ

しかも、寄り添うように馬頭丸に己の体を預けているではないか

しかも目の前にはそれを見守るかのようにリクオがいた

自身のありえない状態につららは頭が真っ白になった



「いや〜馬頭丸のエッチ〜〜!」



次の瞬間には大絶叫しながら隣にいた馬頭丸を氷漬けにしていた


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