「な、なあ・・・本当に大丈夫なのか?」

薄暗いビルの一室

二人の男が向かい合って座っていた

一人の男は山のように大きく、先程からそわそわと手を組んだり口元へ持っていったり落ち着きが無かった

もう一人の男は、普通の優男風で端整な顔に薄っすらと笑みを張り付かせて目の前の大男を嘲るように見ていた

「何をそんなにビビッてやがる?」

「だ、だって・・・あの奴良組だぞ、本当に大丈夫なのか?」

「ふ、さっきから大丈夫だと言ってるだろう、守備は整ってる後は奴が罠にはまるだけさ」

「し、しかし・・・」

そう言って大男は言い辛そうにちらちらと目の前の優男を見た

「あ?なんだ、不満でもあるのか?」

「い、いや・・・・だが、こう言っちゃ何だけどよ、あんた一度あの奴良組に潰されてるんだろ?ひっ!」

大男はそこまで言うと、優男が鋭い眼光でこちらを見ているのに気づき、短い悲鳴を漏らした

無意識の内に地雷を踏んでしまった間抜けな男は、がたがたと大きな体を震わせながら「すまんそんなつもりじゃないんだ」と床に頭を擦り付けながら何度も謝った

しかし大男を睨んでいた優男は、突然くくっと笑い出だした

「ああ、確かにこの前あの男に俺の組織は潰された、だからなんだ?」

「へ、い、いや・・・」

何でもない事の様に言ってくる優男に、大男はぽかんと口を開けたまま見上げていた

「まあ、一度やり合ってるからな、あいつらの弱点も色々わかってるんだぜ」

「ほ、本当か?」

「ああ、だから俺に任せておけば大丈夫だ」

自信たっぷりに言う優男の言葉にそれまで不安に身を震わせていた大男は「そうか」とやっと安堵の息を吐いた

「だ、だがあんた本当にいいのか?」

「あん?ふっ・・・いいぜ、おれは欲しいものが手に入りゃ、あとはあんたに全部くれてやる」

「ほ、本当か?」

「ああ」

念を押して聞いてくる強欲な大男に優男はさも当たり前だという風に頷いてやる

そうすることで俄然やる気を出した大男に、優男は気づかれないようににやりと笑った



「ああ、欲しい者が手に入れば、な・・・」





「ここか?」

「はい、ここが奴らの根城だそうです」

リクオの問いかけに、一人の側近が前に出てきて頷きながら答えた

いつもは人や妖怪で賑わうはずのここは先日の騒動のせいで閑散としていた

リクオが見上げているそこは、5番街に立ち並ぶビルのうちの一つだった

灰色のコンクリートで作られた無機質なそのビルは、今は誰も使っておらず空きビルとなっているはずだった

しかし、そのビルの3階の壁にはピンクの派手な看板が取り付けられ、その部屋の中は薄暗い明かりが灯っていた

どこの妖怪かは知らないが自分のシマに勝手に上がり込み、許可も無く何やらいかがわしい商売をしているそうなのだ

今回の刃傷沙汰は、そいつらを問い詰めるべく文句を言いに行った組の者が逆に返り討ちにされたのだという

組の中でも武闘派の妖怪達がやられたと聞き、リクオが直々に話をつけに出向いたというわけだった



思ったより組織は小さいんじゃないか?



実は一人で出向こうとしていたリクオだったが、過剰に心配する側近達に説得させられ百鬼を引き連れる羽目になったのだが・・・・

俺だけでも良かったんじゃないか?と素直な感想をリクオは胸中で呟いた

ビルと言っても小さなそこは百鬼を入れるには狭すぎる

こんな所に百鬼を引き連れてまで相手するような妖怪がいるとも思えなかった

しかし、油断は禁物

屈強な妖怪達が5〜6人返り討ちに合った場所なのだ、とりあえず腕に自身のある側近を引き連れてリクオ達はビルの中へと入っていった


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