「邪魔するぜ」

リクオは返事を待たずに部屋の中に入ると辺りを見回した

薄暗い部屋の中はバーになっているらしく、カウンターの奥にある棚の中には色んな種類の酒がずらりと並んでいた

しかし、カウンターの奥には従業員の姿は無く、店の中にさえ客の姿はいなかった

いや、一人だけ居た

窓際のテーブル席にぽつんと一人、テーブルに足を投げ出しビンごと酒を呷っている男の姿があった

「おい、ここにはお前しか居ないのか?」

ここにいるという事は、こいつが今回の主犯か?と警戒しながらリクオはテーブルに居る男に声をかけた

「んん?あ〜そうみたいだな〜、ま、ただ酒が飲めるからいいんじゃねぇの?」

リクオの警戒を他所に、男は暢気にそんな事を言いながらにやりと笑った

「なあ、あんたも飲むかい?」

男はそう言ってリクオに酒ビンの口を向けた

「いや・・・」

リクオが断ろうとした時、男は突然手に持っていた酒を床へこぼし始めた

「一緒に飲もうぜ〜」

「!!」

男の声が響くのとほぼ同時に、床全体が突然ぐにゃりと柔らかくなった

否、床が柔らかくなったのではなく、床から何かぬるりとしたモノが湧き出てきたのだ

それはあっという間にリクオ達の膝の辺りまで湧き出ると、どろどろと足を絡め取りだした

「く・・・罠か!」

「ひゃはははは、気づくのおせーんだよ!」

男は大声で笑うとパチンと指を鳴らす

その途端、わらわらと天井から無数のネズミが這い出てきた

それは一つの塊となり川のようになってリクオ達に向かって突進してくる

「く・・・」

リクオは懐に隠し持っていた弥々切丸を構えると、向かってくるネズミ達に切りつけた

「キャー」

突然響いた悲鳴に驚いて振り向くと、あろうことかネズミ達はつららを襲っていた

「つらら!」

絡め取られた足を必死に引き抜きながらつららの元へ向かうリクオに男は嘲るように笑った

「ひゃひゃひゃ、こいつは貰っていくぜ」

ざざざぁ

すると男の声を合図に、まるで川が氾濫したような流れを作ったネズミ達は、つららを連れてビルの窓から逃げていく

「後はお前の好きにしな!泥田坊」

男はそう言うとリクオに向かって勝ち誇った笑みを向けると、ひらりと窓の外へ飛び降りた

「待て!」

リクオが慌てて後を追おうと足を引き抜こうとした時、がしり、と何かが腰に纏わりついてきた

見下ろすと黒い泥の塊のような大きな手が自分の体を掴んでいた

片手でリクオの腰を軽く捕まえている泥の手はみるみる内にムクムクとその腕の先が盛りあがっていく

それは形となって巨大な人型となった

「お前の相手は俺だー」

泥でできた妖怪はにたりと笑いながら捕まえたリクオを高く上へとかざす

「若!」

「リクオ様!!」

足を取られてもがいていた側近達は血相を変えてリクオを見上げた

その次の瞬間――

「奴良組若頭取ったど〜!」


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