「この二人が光の中から現れた奇跡人か?」
屋敷の中央、豪華な調度品に彩られた部屋の中で凛とした声が響いた
その声の主は部屋の奥、一段高く作られた場所に腰を下ろし、下座で深々と頭を下げる男を見下ろしていた
「左様でございます」
折り目正しく正座をし、深々と頭を下げていた男は少しだけ頭を上げると、上座に座る主人を見上げながら肯定する
その言葉に、この部屋の主人は男の後ろに座る二人の人物に視線を寄越した
「して、その者達はいったい何者じゃ?」
鈴のような美しい声音で静かに話すこの部屋の主人は、部屋を彩る調度品に引けを取らない程の美しい姫君であった
その姫は存在無げに座る二人を見ながら首を傾げた
「見た所、妾と同じ人に見えるが?」
「ですが、この者達は先刻話しました通り光の中から現れたのは事実でございます」
「そうか・・・まこと不思議なこともあるものじゃな」
姫はそう言いながら二人ににこりと笑みを向けた
「り、リクオ様ど、どうしましょう?」
「どうするって・・・・」
目の前で繰り広げられる主君と従者のやり取りを見ながら、つららは隣に座るリクオにこっそりと話しかけていた
リクオもまたつらら同様どうしたものかと頭を悩ませていた
あの硯箱が突然光ったかと思ったら、いきなり知らない部屋にいたのだ
しかも昼だというのにリクオは夜の姿になっていた
訳も判らず呆然と立ち尽くしていると、その部屋にいた姫の家臣――今現在目の前で姫に深々と頭を下げている男――に無理やりこの場所へと連れて来られたのだった
そして、あれよあれよという間にこの城の姫君に目通しされて今に至る
家で大掃除をしていた筈なのに何故?とリクオは深いため息を零した
これからどうするか?とリクオが頭を悩ませていると、目の前から自分を呼ぶ声が聞こえてきた
「これ、これ、そこの者、姫様がお呼びだ」
「え、俺か?」
突然呼ばれ顔を上げると、先ほどの男が眉間にしわを寄せてこちらを見ていた
リクオは自分を指差し相手に聞き返すと、そうだと言わんばかりに頷かれ前に来るように指示された
リクオは仕方なく立ち上がると男の隣に移動する
「そなた、名はなんと言うのじゃ?」
待ちきれないと言わんばかりに姫君は身を乗り出してリクオに聞いてきた
「姫様!」
家臣はその振る舞いに眉を顰めながら姫を嗜める
「良いではないか、まったくお前は堅いの〜」
その言葉に姫は口元を隠しながら嘆息した
そんな二人のやり取りにどこか近親感を覚えつつリクオは口を開いた
「俺は奴良リクオ、あんたは?」
「こ、こら、姫様になんと言う口を!」
「ほほほ、よいよい妾は六花じゃ」
「りっか?」
「そうじゃ、変な名じゃろう?」
「姫!お母上様が付けられた名ですぞ!」
「なんじゃ?変なものは変じゃ!のうリクオ?」
そう言って六花と名乗った姫はころころと笑った
「して、リクオ、お前と一緒にいる娘はお前の女か?」
「え?」
「ひ、姫どこでその様な事を覚えて!!」
あろう事か、城の姫君は後ろで大人しく座っていたつららに視線を向けると、小指を立ててリクオに聞いてきたのである
姫とは思えないその行為に、ひぃっと悲鳴を上げる家臣の声が部屋に響く
そして、突然話の矛先が自分に向いた事に、つららは瞳をぱちくりさせてキョトンとしていた
「え、ええ!?女って・・・ええええええ???」
しかし一拍の間の後、つららは真っ赤になった頬を押さえながら絶叫しだした
口をパクパクとさせ何やら意味不明なことを口走っている
そんなつららを見かねたリクオは溜息を一つ吐くと六花に向かって言った
「こいつは俺の側近だ」
あわあわと顔を真っ赤にさせて狼狽ているつららを指差しそう言ってやると、六花はつまらなさそうに「そうか」と呟いた
口を尖らせて言う六花に、リクオは「すまなかったな、あんたの期待通りじゃなくて」と苦笑した
その言葉に、先ほどまで悲鳴を上げていた家臣がギロリと睨んできたが、それを受け流すように目の前の姫君に視線を向けた
「なあ、俺達いきなりここへ来ちまったんだ、ここはいったい何処なんだ?」
「ん?ここか?ここは・・・」
その後、リクオは姫君から教えられた地名を聞いて、ここが自分達が居た世界とは違うという事をようやく理解した
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