相手を切り倒し薙ぎ払う

目の前の敵を猛将のごとく叩き伏せていくリクオの耳に

暢気な笑い声が聞こえてきた



「おお〜またやったぞい、ほれ見てみろリクオの奴だいぶマシになってきたの〜」

「ふむ、そうですなこれで奴良組も安泰でしょう」



くっくっくっ、と可笑しそうに笑い合うこの場所に不釣合いな声

そして鼻腔を刺激する酒の臭い



ぐぎぎぎぎぎ



リクオはまるで油の切れた機械のように首をそちらへと振り向かせた



そこには――



でん、と構えた花見席でぬらりひょんとその他貸元勢達が、杯片手にやんややんやと酒宴を開いている姿があった



「お、おまえら〜〜〜〜」

「お、リクオか?早くせんと酒がなくなるぞい」

からからと笑いながら青筋を立てるリクオにそう言ってきたのは、祖父であるぬらリひょんだ

「じじい!何してやがんだ!?」

このクソ忙しい時に、と怒りも露わにリクオは怒鳴る

ずかずかと大股で敵を切り伏せながら目の前にやって来た孫に、ぬらりひょんは飄々としながら言い放った

「ん〜?何っておめえ、酒盛りだよ酒盛り、通夜に見えるのかこれが?」

どこまでも真面目に取り合わない祖父に、びきっとリクオの米神に一本青筋が浮かんだ

「見えねえなぁ〜、じゃあ何か?花見でもしてるって言うのかよ?」

ひくひくと頬を引き攣らせる孫は、ぎらりと弥々切丸を祖父の鼻先にかざしながらそう言ってきた

「はあ〜?何言ってやがる披露宴だ、披露宴!花婿と花嫁見ながらやってんのよ」

良い余興だな〜と、そんなふざけた事をのたまってきた祖父の言葉に二本目の青筋が浮かぶ

「クソじじい〜〜〜」

弥々切丸を持つ手がぷるぷると震えた

いっそ斬ってしまおうかとリクオが物騒なことを思った時



「お前より花嫁の方がこのケンカにやる気満々じゃねえか?」



ぬらりひょんがくくっと可笑しそうに笑いながらそんな事を言ってきたのであった

リクオは「え?」と思わず素っ頓狂な声を上げ目を瞠る

祖父の口から出てきた花嫁という言葉に一抹の不安が過ぎり、祖父が顎で示した場所を恐る恐る振り返って見た

そこには――



白無垢にたすき掛けをした雪女がいた



「つらら!」

リクオはその光景に三本目の青筋を浮かべるどころか真っ青になって叫んだ

遥か彼方で勇ましく敵を切り捨てる花嫁にくらりと眩暈を覚える

「たく・・・待ってろって言ったのに」

なにやってんだ、とリクオは舌打ちすると慌てて走り出した

目指すはもちろん愛しい花嫁のいる場所だ



「くっくっくっ、こりゃ尻に敷かれるな」



そんな孫を楽しそうに眺めながらぬらりひょんは、にやりと笑っていた



「何やってんだお前!」

「あ、リクオ様ご無事で」

リクオが駆けつけると、ぱああと笑顔と共につららが振り返った

その手には氷の薙刀が握られている

その姿にリクオは嘆息すると、キッとつららを睨みつけた

「このバカ、家で待ってろって言ったのに!」

「何をおっしゃいます!出入りに同行しない百鬼がどこにおりますか?」

言いつけを守らない側近に、リクオは総大将らしく叱ると

何故かつららは目くじらを立てて言い返してきた

その剣幕にリクオは一瞬怯む



「いや、お前・・・花嫁なんだからもっとこう自分をだな・・・・」

いやいや、これから妻になる女にこんな事はさせたくないと、リクオは何とかして帰ってもらわねばと言い返す

しかし



「嫌です!私も戦います!戦わせてください!!!」



瞳をこれでもかという程キラキラさせて懸命におねだりして来たつららに、リクオは「うっ」と頬を引き攣らせた

「ダメだ帰れ」

「帰りません」

しかしここで引き下がると後々面倒だと、リクオが更に言うと

つららも更にムキになって言い返してきた

じりじりと二人お互い一歩も引かない状態が続く

しかし、その均衡を打ち破るかのように横槍が入ってきた



「え〜では、お二人が揃った所で婚礼の儀を執り行いたいと思います」



「「は?」」

突然側にやってきた首無にリクオとつららが同時に振り返る

振り返った首無は心なしか青褪めた表情で、両手に持っていた司会進行用の紙を持ちながら申し訳なさそうにこちらを見ていた

「何やってんだ首無・・・・」

さっきまでの言い争いを忘れてリクオは首無に何事かと問う

「はあ・・・俺は嫌だって言ったんですが」

ぬらりひょん様が、と半泣き状態で呟いた言葉にリクオが眉を吊り上げた

「じじい!」

「はっはっはっ、リクオ時間が押してるんでな」

扇子片手に「早くやれ」と言ってくる祖父の言葉にリクオはぎりっと歯軋りした

「できるかこんな所で!!」

そう叫んで周りを振り返ったリクオは唖然とした

いつの間に現れたのか、目の前には神主と巫女が立っていた

「え?」

リクオが驚いて見ていると神主は徐に二人の前に立つと二人を祓い出す

一通り祓い終わると背を向け何やらぶつぶつと呟きだした

その様子にリクオははっと我に帰る

見覚えのあるその動作に勝手に式を進められていた事に気づいた

「ま、待て・・・」

リクオが慌てて止めに入った時は既に遅く

目の前に御神酒の入った杯が差し出されていた

透明な液体が入ったそれに、リクオは固まる

いつの間にか三献の儀にまで進んでいたらしい

厳かに杯を進めてくる巫女をちらりと見遣りそこでつららと共に息を飲んだ


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