「いや〜道中長かった・・・いやはやここまで辿り着くのに結構手間取ってしまいました」
申し訳ありません、とその大きな鳥は首から提げた巨大な籠を「よっこらしょ」と廊下に置きながら機関銃の如き早口でそう言ってきた
「は、はあ・・・・」
リクオは突然現れしかも当たり前のようにこちらにやって来た鳥を訝しげに見ながら頷く
「あ、申し遅れました私こういう者です」
目の前の巨大な鳥はそう言いながら一枚の名刺を差し出してきた
『あなたの赤ちゃんお届けします コウノトリ』
名刺にはそう書いてあり、リクオとつららは目を点にしながらその名刺を受け取った
そして重大な事実に気づきはっと我に返る
「こ、コウノトリって・・・赤ちゃん届けますって・・・まさか!?」
「はい、そのまさかです〜♪」
ピンポン、ピンポ〜ン♪と大正解!と羽で大きな丸を作りながらコウノトリと名乗った鳥は嬉しそうに答えてきた
コウノトリといえば、結婚した夫婦の元へ赤ちゃんを連れて来てくれるという幸福の鳥として昔から御伽噺などで語られている鳥のことで・・・・
その鳥が今リクオ達の目の前にいるというのだ
「え、いや・・・その・・・・コウノトリって空想上の生き物なんじゃ?」
リクオは恐る恐るといった風に目の前の鳥に聞いてみた
すると
「ノン、ノン、ノン!これだから素人は・・・いいですか?それは人間達が決めたお話、妖怪の世界じゃこれが普通です」
ちっちっちっ、と人差し指(多分)を真っ直ぐ立ててコウノトリはそう言ってきた
しかも
「いや〜、でもうれしいですなぁ、あの時お届けにあがった赤子様がもう私共めを利用されるお年になるとは・・・・」
いやはや時が経つのは早いもんですなぁ〜、とリクオを見つめながら嬉しそうに衝撃的な事実を伝えてくる
その言葉にリクオは固まった
「え?え?い、今なんと?」
固まるリクオの横で声を震わせながら妻であるつららが目の前の鳥に聞いてきた
「はい、二十年ほど前にそちらのお方・・・奴良リクオ様をこちらにお届けに参ったのは他でもない私でございます」
つららに聞かれたコウノトリはまるで自慢話でもするかのようにえっへんと胸を張って説明し始めた
「いやはや、あの時の赤子がこのようにご立派になられた姿を拝見できるとは、嬉しい限りでございます」
しかもその方の赤子まで運ばせて頂けるとは、とコウノトリは羽を胸に当ててうんうんと嬉しそうに頷いていた
「ええ〜っと・・・・それじゃあ僕は君に?」
ようやくショックから立ち直ったリクオが真っ青な顔でコウノトリを見下ろしながら聞く
「あ〜はいはい、そうでございます本当にご立派になられて♪」
リクオの言葉にコウノトリは微笑みながら懐かしそうに目を細めて頷いてきた
その言葉にまたしてもリクオは衝撃を受ける
あの時の赤子の成長を嬉しいと言って来てくれるコウノトリには悪いが
リクオはそれ所ではなかった
え?え?この籠から・・・・じゃあ僕はお母さんから生まれて来た訳じゃなかったの?本当に?
リクオの頭の中はパニック寸前だった
気を抜けばその場に崩れてしまいそうになる足を何とか踏ん張り辛うじて立っている
そしてそんなリクオにコウノトリの容赦ない言葉が降りそそいできた
「若菜様もそれはそれはお喜びになっておいででしたよ!」
くらり
にこにこと笑顔を作りながらはっきりと頷いてきた鳥の顔を見ながら、リクオは眩暈に襲われた
知らなかった・・・・僕って・・・・
リクオは顔を片手で覆って前のめりに倒れそうになった
しかしその時
「おお、忘れておりました!ささ、お納め下さいませ」
「!!!」
そう言って、ずいっとコウノトリが差し出してきたモノに二人は固まった
そこには――
大きな取っ手の付いた籠
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