「つらら」

分厚い氷で覆われていたつららの部屋の襖を、渾身の力でぶち破ると中にいるはずのつららを呼んだ

部屋の真ん中――冷たい畳の上で蹲る小さな人影がぴくりと身じろいだ

「つらら・・・」

その小さな塊にリクオは迷い無く近寄っていく

「つらら」

「リク・・・オ様」

近づいて来たリクオに向かって、つららは恐る恐るといった風にゆっくりと顔を上げると、震える声で主の名を呼んだ

その掠れた不安そうな声にリクオは何とも居た堪れない気分になり唇を噛む

「ごめんつらら」

愛しいつららをここまで不安にさせてしまった自分の愚かさを呪いながら、リクオはつららが許してくれるのかと不安になりながら謝った

のだが――

つららの瞳は見る見るうちに大きく開かれ、驚いたような困惑したような表情になっていく

次いで、「ふえ・・・」と小さく嗚咽が漏れる音が聞こえてきた

つららの美しい黄金の瞳が涙で歪み、ぽろり、ぽろりと大粒の涙を流し始めた

驚いたのはリクオの方で――

ぎょっとしながら慌てふためいた

「やっぱり、やっぱり・・・家長の事を・・・・」

驚くリクオを畳みかけるかの如く、とうとうつららは泣き出してしまった

泣きながら意味の分からないことを叫び始める

「やっぱり、やっぱり私の事なんかもう愛想を尽かされたんですね」

「え?」

「やっぱり家長の事が好きなんですか?」

「は?」

「うう・・・そりゃ7年間も生殺しにしてた私が悪いですよ」

「自覚あったんだ・・・」

「でも、でも・・・リクオ様だって納得してくれてたと思うから私だって我慢してたんです!」

「え、そうなの?」

「その間、リクオ様を氷漬けにしないよう訓練もしました」

「(ごきゅり)ど、どうやって?」

「バナナとかきゅうりとか・・・あんなに、あんなに一生懸命やったのに!」

「・・・・・」

「でも、でも・・・それももう意味が無いんです」

「いや・・・そんなことは・・・ないよ」

「だって、だってリクオ様私の事なんかもう・・・ううう」

「つ、つらら?」

「リクオ様が他の女の事を好きになったのなら諦めます、身を引きます・・・でも!」

「あ、あの・・・」

「でも、でも・・・」

「つ、つらら」



「やっぱりダメです!諦められません!リクオ様じゃなきゃ嫌なんですぅぅぅぅぅ〜!!」



その途端つららは。わんわんと子供のように泣き出してしまった

それを聞いたリクオは――



やった万歳!大成功♪



と先程の不安も消し飛び、心の中で両手を挙げて歓喜乱舞していた


[戻る] [短編トップ] [次へ]