「あ、あの・・・・」
そわそわそわそわ
つららは膝の上に感じる暖かな感触に小さく身じろぎしていた
久方振りに近くで見る主に思わず頬が熱を持ち始めてしまう
リクオと初めて契った日から、どうにも直に顔を見ることが出来なくなっていた
リクオ様・・・・
この胸に溢れるのは愛おしいという感情だけ
好きで好きで堪らないのに
もっともっと触れて欲しいのに
しかし心に抱く思いとは裏腹に、体は別の行動を取る
側に居たい触れていたいと思う度、あの夜の事が鮮明に思い出され
気がつくと、恥ずかしさでついつい視線を逸らしてしまう
しかも本人が近くにいると体が勝手に逃げ出してしまうのだ
そんな事などしたくはないのに、気がつくと距離を置いてしまっていた
つららは膝の上で幸せそうに目を閉じている愛しい人の顔を見ながら目を細めた
本当に久しぶり・・・・
こうやっている今でも心臓はどきどきと早鐘を打ち、膝の上で眠っているリクオに聞こえてしまうのではないかと思うほど煩い
そっと震える手でリクオの柔らかな髪を梳くと、そっと手を握られた
握ってきたのはもちろんリクオの大きな手だ
暖かな陽だまりのようなその手の熱に、つららは一瞬びくりと肩を震わせたが、理性を総動員してなんとかその場に留まる事ができた
これ以上逃げたら本当に嫌われてしまうわ・・・・
それだけは絶対嫌だと、懸命に平静を装ってリクオを見下ろしていた
己の胸はドクドクと煩く悲鳴を上げていたのだが
微かに体を震わせながらつららが懸命に逃げまいと耐えていると
すっと、リクオの閉じていた瞼が開いた
「また逃げられるかと思ってたのに」
逃げないんだねと、つららの瞳を見上げながらリクオは嬉しそうに言ってきた
「恐い?つらら」
「え?」
一瞬何に対して言われたのか判断しかねそうになったつららだったが、しかし次の瞬間激しく首を横に振っていた
「いいえ、いいえ!恐いなんてそんなことありません!!」
ぶんぶんと首が飛んで行ってしまうのではないかと思えるほど激しく否定するつららにリクオはすっと目を細めると
「よかった」
と、心底嬉しそうに破顔した
「リクオ様?」
「つららが最近僕に近づいてくれなかったから心配だったんだ」
不思議そうに首を傾げるつららに、リクオは困ったように肩を竦ませて自身の不安を晒した
「す、すみません」
「ん、わかってるから」
大丈夫だよ、と慌てて謝るつららにリクオは優しく答えた
リクオは確かめるように、そっとつららの頬に大きな手を添える
つららはその温かい手に擦り寄るように頬を寄せると
「もう逃げませんから」
とリクオの手を小さな白磁の手できゅっと握り締めた
そんなつららを見る事ができたリクオは、心の中でやっと安堵の息を吐けた
そして――
つららの為にも早くしなきゃ・・・・おじいちゃんお願いだから早く帰ってきて〜!
と胸中で叫ぶのであった
[戻る] [文トップ] [次へ]