そして、ようやく待ちに待ったこの日がやって来た



ぬらりひょん様御一行、慰安旅行からご帰宅!



やれやれ楽しかったわい、と腰を下ろす暇も無くどこから現れたのか、もの凄い速さで走ってきた愛孫に、ぬらりひょんは自室へと連れ去られた

その間わずか0.5秒

しかも愛孫はこの時、人間の姿だった

その驚異的な瞬発力に、同じく旅行から帰ってきたばかりの側近達は口をあんぐり開けて、ぬらりひょんが連れ去られた廊下を呆然と見つめていた



「なんじゃい、なんじゃい、帰った早々お前は!」

いきなり自室に連れ去られ、やっとのことで手を放してくれた孫に、ぬらりひょんはこめかみに青筋を立てながら怒鳴った

「おじいちゃん」

憤慨する祖父の怒気に気圧されることも無く、更に鬼気迫る顔で至近距離まで詰め寄ってきた孫に、逆にぬらりひょんの方がたじろいだ

「な、なんじゃい」

いつにない昼の姿の孫の気迫に驚かされながら、ぬらりひょんはどうしたのかと聞き返す

そして、孫が次に放った言葉に、ぬらりひょんはこれ以上無いほどに目を大きく瞠る事になるのであった



数分後――

とりあえず、もの凄い剣幕で捲くし立て続ける孫に落ち着け、と茶を勧めた

ずず、と渋い緑茶を啜る音が暫くの間、部屋の主導権を握る

しかしその時間も束の間、空になった湯飲みをコトリと盆に置くと、リクオがぬらりひょんへと改めて向き直ってきた

その姿をぬらりひょんは目を細めて見返す

「本気なんだな?」

「うん」

「反対されても・・・か」

「僕の気持ちは変わらないよ」

「そうか・・・・」

孫の真剣な瞳にぬらりひょんは暫く思案した後、カンと煙管の灰を捨てるとその切れ長の細い目を見開いた

「うむ、お前の心情あい分かった、今夜にでも貸元達を呼ぶとしようかの」

「え、それじゃおじいちゃん」

「ふっ、安心せい、このおじいちゃんが誰にも文句は言わせねぇよ」

「ありがとうおじいちゃん、でも・・・・」

祖父の言葉にリクオは嬉しそうに頷くと、しかし最後の言葉を意図的に途中で切り、すっと背筋を伸ばして睨むような目つきで一瞬だけ祖父の顔を見据えると



「この件は僕がきっちりカタをつけるから、だからおじいちゃんは僕の後ろで見守っててよ」



にこりと曇り一つ無い笑顔でそう告げてきた



こいつ・・・・



孫のその言葉に、ぬらりひょんはくくっと口角を引き上げる



いつの間にか男の目をするようになったじゃねぇか



凛々しくしゃんと背筋を伸ばして己のケジメをつけようとする愛孫に、ぬらりひょんはすっと目を細めると

「そうかい、それじゃあワシは・・・・」



高みの見物とでも洒落込ませてもらうかのう



と、にやりと笑い返してやった







その数時間後、ぬらりひょんはリクオに約束した通り緊急会議と称して全貸元達を本家へと呼んでくれた



「さてと、ここからが本番だな」



リクオはぞろぞろと集まりつつある百鬼達を見ながら、一人策を練るのであった


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