「あ、あの・・・本当によろしいのですか?こんな・・・・」
「大丈夫だよつらら、僕に任せて!」
日が暮れ始めた宵の口
つららは何故かそわそわしながら心配顔でリクオを見上げていた
対するリクオは何処吹く風と、なにも心配要らないよとこちらを見上げるつららに笑顔を見せた
「でも・・・・」
「ははは、つららは心配性だなぁ〜、何も今日、明日祝言を挙げるわけじゃないんだから、今日はその報告だけだよ」
大丈夫、大丈夫、僕に任せておいて!とウインクする主に、つららは「わかりました」とようやく少しだけ笑ってくれた
「ほらもっと嬉しそうに笑って、君は今日の主役なんだから」
「で、でも・・・・あまりにも急なことで・・・・その」
なんだか恥ずかしいです、ときゅっとリクオの服を掴むつららに「可愛いなぁ」とこれからの大業も忘れ、リクオはへにゃりと相好を崩した
そうこれからが本題だ
リクオは愛しい恋人に笑顔を向けたまま胸中で呟いた
百鬼でもある貸元たちを本家に全員集め、リクオはある報告をするつもりでいた
それは――
三代目奴良リクオと雪女つららとの婚約成立の報告
しかもあわよくば、そのまま結納も済ませてしまおうというのがリクオの魂胆である
その為、今日一日リクオは駆けずり回っていた
まず祖父に一番にこの事を相談し――旅行から帰ってきた矢先に拉致った
次に母に報告をした――昼食の準備中だったので台所にいた女衆達と一緒になって喜んでいた
そして屋敷中の側近達に報告した――大、中、小それぞれの妖怪達が驚いたり悔しがったり喜んだりと、それはもう大騒ぎになった
そしてそして・・・最後に愛しい女へ
その場に跪き、大急ぎで買って来た(三羽鴉送迎付き)花束を、つららの目の前に捧げながらありったけの想いを込めて囁いた
「月並みでごめん、僕と結婚してください」
そう言いながら手渡された花束には――
アイリス、アネモネ、スイセン、バラ、・・・・
ありとあらゆる花々がこれでもかという程詰め込まれていた
しかもそのどれもが求婚に使われる花ばかり
「リクオ様・・・・」
突然の言葉と抱える程の花束に目を丸くしながら、つららは目の前で跪くリクオを見下ろした
「ごめんね、花束に入りきらない分は部屋に飾っておいたから」
そう言ってすらりと開け放たれた自分の部屋に、つららは更に目を見開いて驚いた
そこには――
花 花 花 花
花の海
と言えるほどの花達が所狭しと並べられていた
「こ、これって・・・・」
「うん、ほとんどが僕からのだけど、あと本家の皆からのもあるよ、運ぶの大変だったから三羽鴉たちにも手伝って貰っちゃったんだけどね」
「皆からもって・・・三羽鴉たちにもって・・・・」
リクオがさらりと言った言葉に、つららは仰天しながら庭先に控えていた鴉達に目をやった
平然としているように見えた鴉達はよく見ると、体のあちこちに葉っぱやら枝やらが付いていた
心なしか彼らの顔は憔悴しており、自慢の漆黒の羽毛も乱れているように見える
「ご、ごめんなさい」
なんてこと!と慌てて三羽鴉たちに謝るつららに、黒羽丸をはじめ他のきょうだい達は頭を振った
「なに、私達からの気持ちだ、おめでとう雪女」
「ああ、俺達はみんな喜んでんだぜ!」
「よかったな、雪女」
思い思いの気持ちを乗せて祝いの言葉を伝えながら朗らかに笑っていた
「ありがとうみんな」
つららはくしゃりと表情を歪めながらそう言うと、花束の中に顔を埋めるとふるふると肩を震わせた
そんな三羽鴉とつららのやり取りを蚊帳の外で見ていたリクオは
オホン
と一つ咳払いをすると、少し不満げな顔で立ち上がり
「皆、僕のこと忘れてない?」
あはは、と爽やかな笑顔で四人に言った
その笑顔は、笑顔なのに何故か般若のように見えて・・・・
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