目を細めて一人ひとり己の下僕達を見渡す主の瞳には強い意志が宿っていた
それはまるで、これから言う言葉に誰一人として異を唱えることを拒むかのような威圧を持っていた
その突き刺すような瞳に知らず冷や汗が垂れる
たっぷり数秒の間をもってからリクオが徐に口を開いた
「今日集まって貰ったのは他でもねえ、俺とこいつとの婚約の報告をするためだ」
リクオの言葉に場は騒然とした
ざわざわざわざわ
「緊急と聞いておったが」
「はて?これはどういう事か?」
「めでたい知らせなのか?」
ある者は首を傾げ、ある者は素直に驚き、ある者は隣同士で囁き合い
あちこちで貸元達が顔を見合わせ困惑していた
すると、一人の貸元が訝しげにリクオに申し出てきた
「こいつ・・・と申しますと?」
しかも、明らさまにきょろきょろと相手の女性を探している
その不躾な貸元の態度に、リクオは鼻に皺を寄せると静かな声で言った
「すぐここにいるじゃねえか」
ここ、とリクオが指差した先には――雪女
は?とリクオとつららを交互に見ていたその貸元は次の瞬間笑った
「ほほほ、まさかとは思いますがそこの雪女ではありますまいな?」
「まさか、三代目ともあろうお方が側近などと・・・その様な戯言を言うために我らをわざわざ呼んだのですかな?」
「くくく、三代目もお人が悪いこの様な事をして我らを驚かそうとは・・・いやはやまだまだ子供ですな」
笑止、と言わんばかりに調子に乗った貸元達に続き、その場にどっと笑い声が湧く
ほほほ はははは くすくすくす
いつまでも響き渡るその笑い声に、リクオは静かに口を開いた
「俺が決めた女に何か文句でもあるのかい?」
ひときわ響く凛と透き通るその声に、部屋を埋め尽くしていた笑い声が嘘のようにぴたりと止んだ
しーーーーーーん
静まり返る部屋
優しく微笑むように聞こえたリクオの言葉は何故か猛毒を含んだ棘のように貸元達の肝をちくりと刺し、一瞬で震え上がらせた
「ふ、なにもねえのかい?」
下を向きぶるぶる震える貸元達を一瞥し、ふっと口元に笑みを張り付かせてリクオがそう呟けば
部屋中に響く息を飲む音
しかし、そんな重苦しい状況を振り払わんと立ち上がる者がいた
「はっ、三代目何言ってやがる、雪女を嫁にするだあ?頭おかしいんじゃねえのか?」
がばっと立ち上がった大きな影は、ぎょろりと大きな目玉を見開いてリクオを見下ろしてきた
一ツ目入道だ
この男はリクオが三代目を襲名する前から何かといちゃもんを付けてくる厄介な相手だった
しかしリクオは一ツ目入道が立ち上がった瞬間、気づかれないようににやりと笑っていた
そう、これこそがリクオの狙いだった
[戻る] [文トップ] [次へ]