そんなつららを横目にリクオは内心舌打ちしていた



言えるかよ・・・・



先程つららの祖母が耳打ちしてきた言葉を思い出しながら小さく溜息を吐いた



あそこであれは反則だぜ



やっと帰れると気の抜けた時に落とされた爆弾に、リクオはまんまと引っかかってしまった

あれから顔がにやけたり引き攣ったりでどうしようもない



たく・・・まだ何も無い段階でどうしろって言うんだよ?



爆弾を寄越した雪女の長に向けて悪態を吐く

そして、ちらりと隣に立つ女を見下ろしながらリクオは深い溜息を零したのであった





「よろしいのですか?」

一の側近である妙齢の雪女が何か言いたげな表情で長である女を見上げた

「よい」

長である女は短く言い放つ

「しかし・・・」

尚も食い下がろうとする側近に長は静かに言った

「あれが幸せならよいのじゃ、あの男なら大丈夫じゃ」

長は側近を見下ろしながら妖艶に微笑んだ

その笑みをうっとりとした表情で見ていた側近は

「お館様がそうおっしゃるなら私どもはそれに従いましょう」

と恭しく頭を垂れると側近はもう何も言わなかった

そんな忠実な側近に朗らかな笑みを寄越すと長である女は言った

「それにな、妾はつららにこうも言ったのじゃ」

女は空を見上げると実に楽しそうに言葉を続けた

「雪女の業を全うするまで帰って来るなとな」

「は?」

長の言葉に側近は目を丸くした

雪女の業、それもちろん口吸いであり

しかもその相手はもちろん・・・・

「し、しかし・・・」

「なに、あの男なら大丈夫じゃ」

側近である女は慌てて長である女に言うが、長は自信たっぷりに即答するばかりであった

「雪女を妻に娶ろうなどと、その位の覚悟が無くては勤まらぬからのう」



確かにそうではあるが・・・・



側近の女は長の言葉に同意はすれど、その意図を計れず首を傾げた

我らが主は一体どうなされるおつもりなのかと

愛孫であるつらら様の幸せを一番にお考えの主が、事もあろうに愛孫が心を寄せる相手に口吸いを勧めるなど、常軌を逸した言動に側近は意味がわからないと首を傾げた

そんな側近の不安を他所に、「はてさてこれからどうなるか楽しみじゃ」と言いながら長である女は楽しそうに空の彼方で見えなくなっていく宝船を見上げながら笑った


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