それから僕は何人もの女性と出会い恋をした
でもその殆どは長く続かず、自分の正体も明かすことは無かった
僕は色んな女性と出会い恋をする間、僕の体は人間同様に成長し歳を取っていった
そして、人間としての成人を迎えた時から外見の成長がぱったりと止まってしまった
ああ、僕は妖怪だったんだってこのとき初めて気がついた
相変わらず僕の容姿は昼と夜とで変貌し混ざり合うという事は無かった
そのお陰で僕は未だに彼女に正体を教える事ができなかった
隣で微笑む彼女は、もう何人目になるかわからない恋人だった
彼女は人間だった
清楚で可憐で笑った顔が愛らしい少女のような女だった
そして凄く恐がりでお化けや幽霊の類が大嫌いな娘だった
あの子に似てるな
初めて会ったとき、遠い昔に別れた幼馴染の顔を思い出した
彼女はあの幼馴染とどこか似ている
そんな雰囲気を持つ女だった
案の定、彼女にも僕の正体は明かさなかった
しかも、家にも呼んだことは無かった
恐がりの彼女のこと、家を見た瞬間恐怖で顔が引き攣るのが目に見えていたから
彼女はかつての幼馴染よりも恐がりだったから
そして心のどこかで僕は彼女との関係も長くは続かないなと、どこかで諦めていた
そして2年後・・・・僕の予想通り彼女とは別れた
別れた原因は単純なものだった
何度も僕の家に来たいと言っていた彼女を、一度だけ家に招待したことがあった
その時の彼女の顔ときたらこの世の終わりのような恐怖に怯える表情で僕の家を見上げていた
それはそうだろう
都心の一等地に建つ大きな屋敷とは言え
屋根の瓦は割れ、壁はぼろぼろ
屋敷の中はひんやりとして薄暗く
まさにお化け屋敷然としたそれを見た途端
彼女は竦み上がり、半時もしない内に逃げる様に帰ってしまった
その後は一方的に避けられ、いつの間にか自然消滅していた
今回もまた自業自得だった
お化けも妖怪も大嫌いな娘と付き合ったから
はなから合うわけがないのにただ何となく付き合ったから
本当のことを言う気も無かった相手
ただ惰性で付き合い始めた相手
この数十年僕はそんな恋愛しかしていなかった
僕が成人してから随分経ったとき
結婚を考えられる女性と付き合っていた
その女は芯が強くとても気の強い女性だった
しかし、お化けや妖怪を信じない人だった
だけどそれ以外は何の問題もなく彼女も僕を愛してくれていた
僕も彼女を愛していた
彼女と出会ってから3回目の秋が巡って来た時
不意に彼女の口から結婚の話が振られた
僕は困った
彼女に本当のことを言うべきか否かと
僕が実は妖怪の孫だって事を・・・・
悪の総大将の血を引いているってことを
百鬼の妖怪を率いる主だってことを
僕は色々考えた末、彼女に質問してみる事にした
「僕がもし妖怪だったらどうする」て・・・・
その質問に彼女は当たり前のように笑いながら答えた
「妖怪なんかいるわけないじゃない」
彼女はそう言って笑った
そして・・・・
「貴方が妖怪だったら困るわ」
とも言っていた
その答えに僕は「どうして?」と聞くと、彼女はさも当然のようにこう答えた
「だって気味が悪いじゃない」
あんな気持ちの悪いものと結婚したいと思うの?と逆に聞き返されてしまった
僕は彼女の答えに何も言えなかった
否、答えることができなかった
答えてしまったらきっと「貴方頭おかしいんじゃない?」と言われることが解っていたから
そう
誰もそんな話を聞いて一緒になろうなんて思ってくれるわけがないのだ
僕はまた一つ悟った
人間は妖怪が嫌いなんだってことを
今頃そんな事に気づくなんて
僕は自分の愚かさに自分が心底嫌になった
この彼女もまた次の春には別れていた
僕が生まれてから50年の月日が経っていた
[戻る] [短編トップ] [次へ]