「リ、リクオ様!」

つららは僕の行動に驚いたのか久しぶりに僕の名前を叫びながら目を瞠っていた

その声に僕はピクリと反応してしまい思わず彼女を見上げた

しかし今度は僕も真っ直ぐにつららの瞳を見つめる

太陽の光の下、真っ直ぐ見上げたつららの瞳はどこまでも黄金色で

その螺旋の渦巻きが不安そうに揺れていたのを見た僕は何とも言えない庇護欲に駆られた



守りたい



胸のうちに湧いた想いに僕は驚いた

可笑しいかな

僕は今までお前に守られていたのにね

昔からずっと守られ庇護されそれが当たり前だったのに

彼女への想いに気づいた僕はいつの間にか逆の想いが芽生えていたらしい



この笑顔を

この体を

この声を



全身全霊を賭けて護り抜きたい

僕はそんな想いに気づいて笑った



こんな想いは初めてだった



こんな欲は初めてだった



守りたい



そう思ったことはいままで何度もあった

でも



今まで僕が思い描いていた守ると

彼女に向ける護るとでは雲泥の差があった



仲間を守る



人を守る



そんな思いはこの100年幾度として思った事であった

そう

今まで出会ったひと達に向けたのは加護の思い

でも彼女に向けるのは



独占欲の想いだった



僕のためだけの笑顔

僕のためだけの声

僕のためだけにある躰



自分のためだけの愛護

僕は身の内から沸き起こる貧欲な欲望に正直驚いていた



僕にもこんな感情があったなんて



今まで出会った相手とは、どこか淡白な付き合いばかりをしていた

もちろん相手のことは好きだったし愛していたこともあった

しかし、これ程までに貧欲に相手を求め嫉妬し護りたいと思う相手はいなかったと思う

これ程までに恋焦がれた相手はいなかった

今までは・・・・



僕はいつの間にか、この目の前の女をどうやったら自分のものだけにできるのか

そればかりを考えるようになっていた

彼女の腕を掴む手に力が篭る



ハナシタクナイ



狂気にも似た貧欲な独占欲に僕は思わず目を瞠った



どうしよう・・・・

どうすれば



彼女ハ僕ニ振リ向イテクレルノカ?



モシ彼女ガ振リ向イテクレナカッタラ?



そんな思いに体が震えた

彼女の腕を掴む手が小刻みに震え出す

「リクオ様?」

二度目の彼女の僕を呼ぶ声に僕は小さな小さな掠れた声で呟いた



「どこにもいかないで」



僕の呟きに彼女は驚いたように目を瞠っていた

しかし、その表情もすぐに柔らかな微笑みに変えるとすっと僕の足元へ膝を折って僕を下から見上げてきた

「リクオ様、私はここにおります。未来永劫お側にいると約束したではありませんか」

そう言って慈愛に満ちた瞳で僕を見上げるつららに僕は縋るような瞳で見つめ返した

「わかってる、わかってるよつらら・・・でも・・・・」



僕は恐いんだ



つららに嫌われることが

つららに愛想をつかれることが

つららがただの側近だという事が



僕は身勝手な自分の感情に唇を噛んだ

俯く僕につららはきっと違う解釈をしたのであろう

僕の頬にその柔らかな手を添えると側近としての顔で僕にこう言った

「リクオ様は一人ぼっちじゃないですよ、他の者達はみなリクオ様を慕っております。もちろん貴方様を知る人間の方達も貴方様を慕っておいでです」

だから一人なんかじゃありません

そう言って微笑む彼女に僕はまた小さな声で呟いた

「つららは?」

「もちろん私もです」

鈍感な彼女はそう微笑んで僕に残酷な言葉を吐いた

「違う・・・・」

僕はぎりっと唇を噛み締めると、見上げるつららの瞳をぎっと睨みながら顔を上げた

「違うよつらら、僕はそんなのが欲しいんじゃない」

僕はきっと酷い顔をしている

その証拠に僕の顔を見たつららは驚いたように目を瞠って小さく声を上げていた

「僕は、僕は・・・ずっと側で僕と共に人生を歩いてくれるヒトが欲しい」

「ですからそれはいつかきっと素敵な方が現れます」

前にも聞いたそんなくだらない話をつららがまた言ってきたもんだから、僕は声を荒げてはっきり言った

「この150年僕はいろんな相手と付き合った、でも僕の一生を共に歩いてくれるヒトは誰一人としていなかった。ふっ・・・見ていたお前ならわかるだろう?」

「そ、それは・・・・」

「これから現れるって?そう、現れたんだよやっと」

「え?」

つららは僕の言葉に大袈裟なほどびくりと体を強張らせた

そして恐る恐るといった風に僕を見上げてきた

「うん、現れたんだやっと・・・・」

「それは一体」

誰ですか?と震える声で聞いてくるつららに、僕は口元をにやりと引き上げて囁くように告げた



「つらら」



と一言だけ


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