僕の言葉につららは固まっていた
目をこれでもかという程見開き
口をぽかんと開いて
「僕はつららがいい」
「リクオ様・・・」
続けて囁いた僕の言葉につららは固まっていた体を面白いように震わせた
そして弾ける様に顔を上げると次の瞬間僕から離れようと後ろに後退った
しかし僕から離れようとしたつららの腕を僕は離さなかった
「り、リクオ様」
離してくださいと言うつららに、僕は首を横に振った
「つらら、今更だって思ってる。最低だってわかってる。でも気づいたんだ」
「リクオ様・・・・」
「僕は、僕はお前に傍に居て欲しい。これからもずっと」
「ですから私は今でもお側に」
「そういうんじゃなくて、側近でも下僕でもないおまえ自身が欲しいんだ」
尚もはぐらかそうとするつららに、僕はじれったさを感じ彼女が逃げられないようにはっきりと告げた
「・・・ッ!!」
その言葉につららもようやく意味を解したのか、みるみる内に頬を赤く染め上げていく
その反応に少しだけ勇気が持てた僕は、さらにつららを絡め取るために言葉を紡いだ
「好きだよつらら、愛してる」
体から溢れる想いを込めて
心から沸き起こる愛情を詰め込んで
僕は優しく優しく囁いた
その愛の告白に、つららは更に顔を真っ赤にさせると、あろうことかぽろぽろと涙を溢しはじめた
ぽろぽろ
ぽろぽろ
その涙は次第に量を増し、終いにはダムが壊れる如く大決壊していた
ぼろぼろ
ぼろぼろ
「そんな、そんな」
「今さらでごめんね」
後から後から雪解けの滝のように流れ落ちる彼女の涙を、僕の指先で拭ってやりながら僕は心の底からすまないと謝る
本当に本当に情けない
いまさら気づくなんて遅いのに
いまさら伝えるなんて勝手過ぎるのに
でも・・・・
想いを伝えたかったんだ
たとえ嫌われようとも
たとえ呆れられようとも
たとえ傍に居てもらえなくても
嫌だったけど
今でも震えが止まらないほど嫌だけど
でも
伝えられて良かった
僕が生涯最初で最後の一世一代の本気の告白に、既に当たって砕けたなぁ〜と自嘲の投げやりな笑みを零していると
目の前のつららの眉がきりきりと釣り上がってきた
なんだ?って驚いている僕につららは次の瞬間今までに無いくらいの絶叫で僕に向かって言ってきた
「今さらです!本当に本当になんで今頃なんですか!?」
「え?え?つらら?」
「私だって私だってこの150年どんな気持ちでいたか・・・ずっとずっと見守ってきて、ああリクオ様は人間といつか結婚するんだなぁって諦めてたのに・・・それを今さらなんでですか!」
「あ、あの・・・つららさん?」
「ずっとずっと・・・・諦めてたのに堪えてたのに我慢してたのに秘密にしてたのに〜〜〜」
「ちょ、ちょっとつらら?」
がくがくと僕の胸倉を掴んでもの凄い剣幕で捲くし立てるつららに、僕は今までに無いくらいの彼女の畏れを感じて心底怯えてしまっていた
だから
そうだから
次の瞬間彼女の言った言葉を直ぐには理解できなかった
「私だってリクオ様のこと好きだったのに〜〜〜〜!!」
「え?」
「そうです好きでした、家長と付き合ったときも他の女性と付き合ったときも、結婚を決めそうになっていたときも・・・ずっとずっと〜〜〜・・・て、あっ!!」
そこまで叫んでつららはようやく気づいた
あれ程止まらないんじゃないかというほど流れていた涙はぴたりと止まり
声を荒げていたつららの絶叫も今は恐ろしいほど静かになっている
そして当の本人つららはというと――
これ以上ないくらい顔を真っ赤にさせて、口元に手を当てて凍り付いていた
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