僕は以前彼女に邪魔だと言ったんだろうか?



何度過去の言葉を思い出そうとしてもそんな言葉を言った覚えは無かった

「その、僕つららに何か酷い事言ったのかな・・・・その、邪魔だとか?」

僕はまさかと思いつつつららに聞いてみた

「いいえ、そんな事一度も言われておりません。その、これは私が勝手にそう判断してやっている事ですから」

つららはそう言ってまた下を向いてしまった

「勝手にって・・・なんでそんな事する必要があったのさ?」

僕はつららのした事に内心むっとしながら聞き返した

「あ、そ、その・・・お邪魔しては悪いと思って・・・・」

つららはそう言いながらみるみる内に顔を真っ赤にさせて僕を見上げていた

その恥ずかしそうな申し訳なさそうなその視線に僕は合点がいった



ああなるほどそういう事か・・・・と



つまりつららは僕が恋人と一緒に居るとき気を使ってくれていたのだ

僕達が、いや僕が気兼ねなく恋人と一緒にいられるように

気の利きすぎる側近の気遣いに僕は苦笑しそして感謝した

「そっか、気を使ってくれてたんだありがとう」

「あ、い、いえ、でもちゃんと三代目に危険が無いように建物の外で外敵がいないかちゃんと見張っておりましたよ、それに三代目が危険に晒されたときはいつでも駆けつけられるようにしておりました」

つららは僕にお礼を言われたのが嬉しかったのか、胸を張ってえっへんと誇らしげにそう告げてきた

「うん、ありがとう。でも今は別に付き合ってる人とかいないから側に居てもいいのに・・・・」

そのあまりにも懐かしい仕草につい

そうつい本音を漏らしてしまった

僕が少し前から気になっていたこと

その言葉につららは一瞬嬉しそうに笑ったが、次の瞬間にはきりりと眉を上げて頭を振っていた

「いいえ、それはなりません。三代目は立派に成人なされた殿方です。側近とはいえ女を側に侍らせておくなどどんな噂が立つかわかりません」

久しぶりのそのお小言のような物言いに僕は半分嬉しかったが半分うんざりしていた

「つららもそんなこと言うの?僕は誰とももう付き合う気は無いよ」

「まあ、その様なこと・・・・」

「なんだよつららも僕に結婚しろって言うのかよ?」

僕は何故だか裏切られたような気分になって、胸に燻り出したイライラをぶつけるように目の前の女を見下ろしてしまった

「い、いいえそんな事・・・・」

つららはぽつりと呟いたが次の瞬間はっとしたように目を瞠ると僕を睨むように見上げてきた

「三代目、その様なことお考えにならないで下さい。きっといつか素敵な方が現れます」

「もういいよそれは・・・・探したけどいなかったし」

「いいえ、いええ、若菜様のようにきっと素晴らしいお方がきっと現れますよ」

うんざりだ、と嘆息する僕につららは小さく首を振り慈愛に満ちた瞳で僕を見上げてきた

その視線に僕は一瞬押し黙る

「焦らないで下さい。つららはずっと三代目に素敵な方が現れると信じておりますだから・・・」

「もういいよ」

「三代目?」

「もういいよ、それよりさ、つららにも縁談が来てたって知ってた?」

僕はこれ以上つららの口からそんな話は聞きたくなくて強引に話題を変えた

あんな事を言ったつららに意趣返しするつもりで

「え?ああはい、聞いております、ですが・・・・」

「大丈夫、きちんと断っておいたから」

つららの言葉を見越して僕はそう答えた

その言葉につららは一瞬キョトンと呆ける

「あれ、迷惑だった?」

「い、いいえありがとうございます、どうやって断ろうか考えていたんです」

僕の言葉につららは弾かれたように反応し、次の瞬間深々と頭を下げて礼を言ってくれた



良かった、つららも断ろうとしていたんだ



そう分った途端、なんだかほっとした

「そっか、なら良かった」

「はい、私まだまだやること一杯ありますもの、結婚なんてしている暇ありませんわ」

そう言って笑う彼女に僕はまた疑問が浮かんでしまった



じゃあ、暇ができたらどうするの?



そのあまりにもな疑問に僕は内心苦笑した

それは彼女の自由であって、僕が決めることじゃないじゃないかと

でも、そう内心で苦笑する自分の中にそれを否定するものがあって

僕は何故だかわからないけれど、その否定の声に静かに賛同していた



つららは僕の側近だから、だからどこにも行っちゃいけないんだ



と・・・・


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