「リクオ様が雪女の相手を見つけなさいませ」
僕は鴉天狗の言葉を何度も頭の中で繰り返していた
あれから3日経った
鴉天狗から言われてあっという間に3日も経ってしまった
そして僕の部屋には鴉天狗が置いていったであろう大きな風呂敷包みが部屋の隅に置いてあった
あれからつららは僕の側に近づいて来なくなった
そりゃそうだろう
あんな剣幕で怒鳴り散らしたんだから
側にはいないが彼女の気配は感じる
多分どこかでそっと僕の護衛をしているのだろう
そう思うと何だか居た堪れない気持ちになってきた
彼女はちっとも悪くない
悪いのは僕だ
そう僕・・・・
意味もわからないイライラに流されて感情のままつららの縁談を否定してしまった
頭に昇った血が引いた今、僕は不思議なくらい冷静に3日前の事を振り返っていた
何故あんな事を言ったのか
何故良しと頷けなかったのか
見合い話は自分にも降りかかっていた事なのに
あの時はそんな事どうでもよかった
僕が見合いをすることで、もしつららが見合いせずに済むのなら何百という見合いをしても良いと思ってしまった
我ながら変な感情だ
なんであの時・・・・
僕は先程から何度も同じ自問を繰り返し何度も答えに詰まっていた
一番近い言葉で言うなら恐怖だ
彼女を失うという恐怖
結婚という一つの枠の中に彼女が入ってしまうことで僕から遠い存在になってしまうような
もう側に居てくれなくなってしまうような
そんな不安が芽生えた
でも・・・・
今だって彼女は色んな枠の中に入っている
奴良組という枠
側近頭という枠
先輩という枠
そして何よりも僕の側近としての枠
こんなにも彼女を縛る枠があるのになんでただの結婚に僕はここまで執着するのか
ふとそこまで考えてある事に気がついた
結婚ってなんだ?
結婚・・・ケッコン・・・・
結婚て言えば、そりゃ相手を見つけて一緒に暮らして朝起きて夜寝て
あんな事やこんな事をしてそれで子供ができて・・・・
そこまで考えて腹の底から何か煮えくり返るものが沸々と湧いてきた
あんな事ってなんだ?あんな事って!!
自分で考えていた事なのに、その内容に思わず自分につっ込みを入れていた
て言うか大人の事情入り過ぎだろ
そのアダルトな内容に僕は一人で憤慨していた
そして結論に達する
僕はつららに結婚して欲しくない
と・・・・・
んで?
僕はこの答えにどう対処したらいいのか困惑していた
確かにつららには結婚して欲しくない
でもなんで?と聞かれたらそれは
よく解らない
だった・・・・
なんでだろう、と袋小路になった思考に途方に暮れ、大の字になって畳の上に寝そべった
ふとその視界にあの風呂敷包みが写った
僕は徐にその風呂敷に近づくと、結び目を解いて中の一冊を手に取って見た
薄っぺらいそれは開くと中には知らない妖怪の写真が貼りつけてあった
俗に言うお見合い写真というやつだ
僕は何気無く何冊かをぱらぱらとめくっていたが、ある一冊を開いた時思わず体が凍り付いてしまった
「こ、これって・・・・」
写真を持つ手がぷるぷると震えていく
バン
僕は力の限りを込めてその表紙を閉じた
「なんで、なんでアイツがここに・・・・」
そうアイツ
僕の百鬼の一人で
組長でもあるアイツ
しょーーーうーーーえぇーーーーい!
何でアイツの写真がここにあるんだ?
僕は嫌な予感に手当たり次第にお見合い写真を確認していった
「ああ、こいつは牛鬼組の若頭・・・て補佐役のあいつまで!」
バッバッと、見合い写真が傷つくのも構わずに中を見ては投げまた中を見ては投げ
総数500部もあろうかというそのお見合い写真を全部確認した
その中に知った顔は十数人もあった
あいつら〜〜〜〜〜
僕を差し置いて何やってんだ
と、僕は胸中で憤慨していた
手に持っていた見合い写真をぐしゃりと握りつぶすと僕は叫んだ
「僕のつららを誰があいつらにやるもんかーーーーーー」
と・・・・・
へ?
ナニ今の?
僕なんて言った?
僕は自分の言った言葉にみるみる内に頬が熱くなっていくのを感じてその場で固まっていた
そして不思議な事に今まで理解不能だった感情が、まるで出来上がったパズルのように理解していく
ああ
僕は
思わず口を掌で覆っていた
顔が熱い
体が意味も無く震える
心臓が煩い
僕は
ようやく
気づいた
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