「はあぁぁぁぁ」
リクオは先程から繰り返す思考のループに盛大な溜息を吐いていた
何度考えても同じ
もうやめよう
もう気にしない
何度も心の中で誓うのだが
今こうしている間でもつららの姿を探したくなる
体がうずうずしている
とりあえず彼女の姿を見れば一時的だがこの気持ちは治まるので、とりあえずはこの気持ちを何とかしようと、いつの間にか止まっていた歩みを再開させた
ペタペタペタペタ
裸足で歩く音が廊下に響く
そういえば靴下履くの忘れたなぁ〜、とそんな事を思い出しながら一つ一つ部屋を確認して行った
今日は休日という事もあってリクオはいつもよりも遅く起きた
しかし覚醒した途端、休みの日でも必ず起こしに来る筈の側近がいなかったことに酷く困惑した
そして襲ってきた不安に、着るものもとりあえずに部屋を飛び出したのが先程
一通り屋敷の中を探し尽くしたリクオは、それでも彼女を見つける事ができなくて
「何処に行ったんだよ?」
と、いよいよもって焦り始めていた
すると、遠くの方から聞きなれた声が聞こえてきた
思わず声のした方へ駆け出す
バタバタと行儀悪く足音を響かせながら辿り着いたそこは――
玄関だった
「ただいま戻りました」
明るい声と共に玄関の入り口に立っていたのは捜し求めていた少女
リクオはその姿を認めるとその場に立ち止まり、ほっと安堵の息を吐いた
良かった・・・いた
その途端、かっと頬が熱くなる
心の底から嬉しいと思ってしまった事が、急に恥ずかしくなってきた
「あら、リクオ様もう起きられたのですか?」
そのまま進むことも引き返すこともできず、玄関から廊下に差し掛かる場所で立ち尽くしていると
リクオの存在に気づいたつららが声をかけてきた
その声にびくりとする
「あ、お、おかえりつらら、出かけてたんだ」
リクオはどきどきする心臓を押さえながら返事をした
「はい、ちょっと買出しに・・・この時間はまだ涼しいですから」
額に浮かんだ汗を拭いながら、つららはそう言ってにこりと笑った
つい、その笑顔にまた心が騒ぎ出す
「あ、そ、そうだね。秋って言ってもまだまだ暑いからね」
リクオはそう言いながらつららの不在理由を理解した
夏から秋へ
暦では秋と言われる季節にはなったが最近の温暖化が原因で、まだまだ夏のような日差しが続く毎日
つららは仕事の一つでもある買出しを、まだ涼しい午前中に終わらせてきたらしい
そのお陰で朝は部屋に来なかったのか、とリクオが納得していると
「それではリクオ様、お昼の準備がありますので、私はこれで」
と、つららはリクオにそう言うと、くるりと踵を返して台所へと歩き出した
立ち去ろうとするその後姿を
「あ、つらら!」
思わず呼び止めてしまった
「はい?」
つららはリクオのその声に振り返る
「え、いや・・・あの・・・・」
リクオは焦った
台所へ向かおうとしたつららを思わず引き止めたはいいが、その後の言葉が続かない
「あ、そ、そうだつららに用があったんだ」
何か言わねばと冷や汗を浮かべながら苦し紛れの言葉を吐く
「あら、そうでしたかそれで何の御用ですか?」
にこにこにこにこ
リクオに用を頼まれることが余程嬉しいのか、つららはにこにこと満面の笑顔で聞いてきた
その笑顔にリクオは「うっ」と冷や汗を流す
やばい、何も考えてない
用事があると言った手前、何か頼まなければならないのだが
上手い用件が思いつかない・・・・
リクオは考えた末、搾り出すような声で呟いた
「そ、その・・・」
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