指先にできた血の珠
それは自分と同じく赤い
深紅だった
リクオは雪女でも血は赤いんだな、とどこかぼんやりと考えながら
ふと、指先にできた血の珠が限界を超えてつつ、と赤い筋を作った瞬間
ぞくり
体中を襲う悪寒に肌が粟立った
全身を駆け巡るその感覚に
リクオの脳裏に過去の記憶が蘇ってきた
吹き飛ばされる小さな体
血を流しながら微笑んできた顔
ずるりと崩れ落ちていく繋がれていた手
思い出した瞬間、胃の腑から込み上げてくるモノに顔を顰めた
指先に血を流したままキョトンとこちらを見つめるつららに
土蜘蛛に攫われる血だらけのつららの姿が重なる
助けなくちゃ
早く早くこの血を止めなくちゃ
リクオは震える手でつららの手首をがしりと捕まえると
その指先を咥内へと含んだ
「へ?」
突然、己の指に食らいついてきた主につららは素っ頓狂な声を上げる
そして、みるみる内に頬を染め、あわあわと慌てだした
「リ、リリリクオ様〜〜」
きゃわきゃわと悲鳴を上げるつららにはお構い無しに、リクオはその冷たい指を口に含んだまま
ちぅっ
とその血を啜った
ひんやりと喉を通っていくその液体に
体の内側がぞくりとまた粟立つ
先程とはまた違うその感覚に、リクオは内心首を傾げた
なんだろうこれ?
おいしく無いけど・・・でも美味しい
胸の内から沸き起こる体を焦がすような感覚
もっと啜っていたい
もっと感じていたい
と頭の奥の何かが訴えてくる
これは僕が妖怪だから血が旨いと思ったのかな?
などと、見当違いな事を考えながらリクオは暫しつららの指を咥えたまま考えていた
ふと、視線を感じて前を見ると――
真っ赤に顔を染めたつららが涙目でこちらを見ていた
「うわっ、ごめん!」
リクオは己のしていた事を瞬時に理解すると、ばっと勢い良く離れた
「い、いえ・・・」
つららは咥えられていた指を隠すように片方の手で押さえると首を横に振る
しかし、その顔は未だにトマトのように真っ赤なままだった
「あ、あの・・・これは・・・」
リクオは先程まで自分が恥ずかしい事をしていた事に気づくと、両手を前に突っ張って振りだした
首も同じように激しく振る
「こ、これはその・・・血を止めようとしてつい・・・」
しどろもどろになりながら言い訳をした
その言葉につららは顔を俯かせたまま「大丈夫です」とぽつりと呟く
そして
気まずい沈黙が落ちた
「あ、こ、これ・・・まだ途中ですから」
と、つららは思い出したように縫いかけのシャツを手に取ると真っ赤な顔のまま作業を再開した
俯きながらチクチクと針仕事を進めだしたつららに、リクオもこれ以上話しかけて怪我をされてはまずいとそのまま渋々と机に戻っていった
そしてまた、カチコチと時計の音だけが暫くの間部屋に響くのだった
[戻る] [短編トップ] [次へ]