「あ〜悪ぃ悪ぃ」
薬鴆堂の当主こと鴆は、屋敷へ上がるなりいきなり謝罪してきた
「え、どういう事、鴆君?」
リクオは何やら嫌な予感を覚え鴆に訳を聞いてきた
「いや〜、この前二人が体調が良くないって言うんで昨日、薬置いていったんだが……」
「ま、まさか・・・・」
鴆の言葉に頬が引き攣っていく
「間違えて若返りの薬置いてっちまったんだこれが」
いや〜悪い悪いと、あははは〜と笑って誤魔化そうとする鴆に
ごいん
リクオの右ストレートが炸裂した
「へぶっ・・・リクオてめえ、いてーじゃねーか?」
「ああ?鴆おめえのせいなんだから当たり前だろう!」
鼻血と吐血で血だらけになりながら鴆が怒鳴り返すのを
リクオは半眼で睨み返してきた
しかも昼なのに何故か夜の姿へと変じているではないか
突然妖怪へと変化し己を睨みつける義兄弟に鴆は頬を引き攣らせた
「ま、まあ・・・すぐ解毒剤作るからよ」
「当たり前だ」
間髪入れず返してくる不機嫌なリクオに鴆は冷や汗を流す
「じゃ、じゃあ俺はこれで」
家帰って薬作らなきゃ、とそそくさとこの場から逃げようとする鴆をリクオが引き止めた
「ちょっと待て、薬ができるのはいつになるんだ?」
その言葉に鴆がうっと呻いた
その声を聞き逃さなかったリクオは眉を跳ね上げると、ずいっと鴆に詰め寄る
「なんだ鴆、なんかあるのか?」
「あ、いや・・・その・・・・」
明らかに挙動のおかしい鴆の首を、リクオはがしりと捕まえた
「いつになるんだ?」
みしり、という音と共にニコリと笑顔を向けながら言うリクオの顔は
怖い
何故か般若の顔と重なって見えてしまった鴆は、冷や汗を大量に流しながら締め付けられた喉から声を必死に絞り出して言ってきた
「い・・・」
「ん?なんだ」
「一週間は・・・かかる」
必死にもがきながらそう一言いった鴆にリクオは
キュッ
さらに指に力を込めて首を絞めてやった
「クェッ」
あまりの苦しさに鴆は堪らずボフンと元の姿に戻る
そして羽毛に覆われた細い首をぎゅっと握り締められたまま、ぶくぶくと泡を吹いて気絶してしまった
「リ、リリリクオ様!!」
その様子を遠巻きに見ていた側近達も、くたりと首を垂らしたままピクリとも動かなくなってしまった鴆の顔色がどす黒いものへと変わった瞬間「これはまずい!」と慌てて止めに入った
「お止めください鴆様が本当に死んでしまいます」
「ちっ、しゃあね〜な・・・おい、鴆一週間も待てねえ三日で作れ三日で!」
リクオは項垂れたままの鴆に向かってそう言うと、不機嫌に足音を響かせて部屋から出て行ってしまった
そして
その場に居合わせた側近達はお互い顔を見合わせる
「こ、これからどうする?」
そしてちらりと部屋の隅を見遣り盛大な溜息を吐いた
そこには――ぽつんと部屋に取り残されこちらを心配そうに見つめる幼女達がいた
「はぁ」
「はぁぁ」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
爽やかな朝
空気は澄み雲ひとつ無い清々しいその朝に、似つかわしくない重い溜息が響いていた
毎朝恒例の食事風景
家族揃っていただきますの合掌をする中
大広間の片隅に見慣れない小さな人影が二つ
紀乃と氷麗が小さな手をちょこんと合わせていただきますの挨拶をしていた
遠巻きにその可愛らしい姿を虚ろな瞳で覗いながら、リクオは力なく溜息を零していた
あれから一日
幼児へと若返ってしまった二人は、あの後屋敷の女衆たちのお陰でなんとか落ち着くことができた
驚き慌てるばかりだった男妖怪とは反対に、女妖怪達は小さくなってしまった毛倡妓とつららを見るや悲鳴を上げていた
「キャー可愛い♪」
「本当、ちっちゃ〜い♪」
などなど、何故か嬉しそうに騒ぎだした
「あらあら、これじゃあ可哀相ね。待ってて、良いの持ってきてあげるから」
そして、ぶかぶかになってしまった二人の着物に気づくや一人の女妖怪が何処から出してきたのか可愛らしい子供用の着物を持ってきた
それを口火に、他の女妖怪達が一斉に騒ぎ出した
「いや〜ん似合う〜!」
「これもあったわよ〜」
「あら、これも可愛いわ〜どれにしようかしら?」
あれよあれよと言う間に、着せ替えごっこが始まった
赤やピンク、花や蝶など女の子特有の可愛らしい着物を二人に合わせながら、あれでもないこれでもないと女衆たちは首を捻る
その剣幕に違う意味で幼女達は怯えるのであった
とまあ、そんなこんなで二人の幼女達は色々な目にはあったものの、女達の優しい(?)介助の下何の不自由も無く朝食にありつくことが出来ているのであった
とりあえず二人の事は女衆たちに任せていれば安心だ
身の回りの世話もここでの生活も全部彼女達が教えてくれるだろう
しかし……
リクオはそこまで考えて小さく溜息を吐いた
ちらりと朝食を頬張る幼女達を見遣る
早く元に戻さないと後々面倒だぞこれは
はぁ、と盛大な溜息を零したリクオの周りでは
可愛らしい幼女姿になってしまった紀乃とつららを、頬を染めながらちらちらと盗み見る下僕達の姿があった
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