「なん……だ、あれはぁ?」



本家勤めを解任され、晴れて捩れ目山へと帰る事が許された牛鬼組若頭は

牛鬼の使いで久々に訪れた本家の門をくぐるや否や驚愕の声を上げていた



目の前には雪ん子



の子供?



と思わず疑いたくなるほど雪女に似た童女が居たからだ

「いらっしゃいませ、ようこそお越しくださいました」

童女は牛鬼組若頭こと牛頭丸に向かってぺこりと頭を下げてきた

「牛鬼組若頭の牛頭丸様ですね?」

「あ、ああ」

「こちらへ、ご案内いたします」

驚く牛頭丸を他所に、雪女似の童女は慣れた様子で相手をしてきた

その手馴れた童女の姿に、必要以上に慌てた自分が急に恥ずかしくなった

そしてたまたま雪女に似たこの組の下僕の童なのではと己の心を無理矢理納得させ

牛頭丸はとりあえず、このままここに突っ立っている訳にもいかないと思い言われるがまま屋敷に上がろうとした

そこへ

「足桶はこちらでありんす〜」



「ぶふっ!?」



今度は奥の廊下から妙に見た事のある童女が現れてきた

童女の言葉通り童女は足桶を抱えてきている

良く知る女にそっくりな童女を二人同時に目撃してしまった牛頭丸は、脱ぎかけた草履もそのままに思わず後ろに飛退いた



「な、なんなんだお前達は!?」



そう叫ぶのも無理はないだろう

それ程に目の前の童女達はあのリクオの側近達に似ていたのだった

そして、真っ青になって叫ぶ牛頭丸に童女達は

「何のことでしょう?」

「なんでありんすか?」

きょとんと大きな瞳をくりくりさせて首を傾げてきたのだった

「ふざけんな!なんの悪戯だ!?」

とぼける二人に牛頭丸は声を荒げて怒鳴る

「どうしたの一体?」

そこへ

騒ぎを聞きつけてリクオがやってきた

「あ、お前!こいつらなんなんだ?」

突然やって来たこの屋敷の主に、牛頭丸は少しだけ安堵した表情を見せると、今度は掴みかからん勢いでリクオへと詰め寄った

胸倉を掴まれ至近距離で睨んでくる若頭に、リクオはずり落ちた眼鏡を直すと明後日の方を向きながら冷や汗を流す

そして――



「え?あ〜〜、えっとぉ……話せば長くなるんだよね」



ぽつりと言い辛そうに頬をかきながらリクオは呟いたのであった



「ふ〜ん、それであんな姿になったっつ〜わけなんだな?」

あれから半時、奴良組屋敷の客間の一室から牛頭丸の声が聞こえてきていた

「うん、まあそういう訳なんだ」

ジト目でこちらを見てくる牛頭丸に、リクオは眉尻を下げながら頷く

「あれが雪ん子ねぇ〜」

牛頭丸はリクオに向けていたジト目を、今度は隣の部屋へと向けた

そこには、紅葉のような手で一生懸命洗濯物を畳むつらら達の姿があった

せっせ、せっせと慣れない手つきで洗濯物を畳む姿は実に微笑ましい

いつしか牛頭丸はその鋭い視線を、ほわぁ〜んと柔らかなものへと変えてつらら達を見ていたのだった

「あの……牛頭丸さん?」

リクオはその視線に気づくと、頬を引き攣らせながら牛頭丸の肩を叩く

はっと我に返った牛頭丸は、垂れていた涎を袖で拭いながらキッとリクオを睨みつけた

「べ、別に、か、可愛いなんて思ってねーからな!」

そう噛み付きそうな勢いで言ってきた牛頭丸の頬はほんのりと赤い

その時――



「くすくす、無理しちゃって〜牛頭ってばちっちゃい子、好きなくせに〜」



聞きようによってはかなりアレな発言をしてきたのは、突然牛頭丸の袖の下からにゅっと現れてきた馬頭丸だった

「なっ、お前どこから!?」

突然の馬頭丸の登場に、牛頭丸はぎょっとしたような顔をして後ろに飛退いた

「あはは〜牛頭丸ったらおかしい〜〜」

そんな牛頭丸を腹を抱えながら馬頭丸が指差す

「な、てめぇ、ていうかさっきのは何だ!」

「へ?牛頭丸が幼女好きだってこと?」

猛犬の如く馬頭丸の胸倉を掴んで吠えてきた牛頭丸に、馬頭丸は他人が聞いたら激しく勘違いされてしまいそうな事を言ってきた

「な、な、な……」

馬頭丸の言葉に牛頭丸は口をパクパクさせる

それ以上動かないと踏んだ馬頭丸は、ぱっと牛頭丸から離れると、さっとリクオの後ろへと隠れてしまった

そして

「だって〜牛頭丸、昔は近所の子供たちとよく遊んでいたじゃないか〜」

怒られるのが怖いのか、馬頭丸はリクオの背中からトレードマークの馬の骸骨を覗かせながらそう言ってきた

「ばっ、あれは、その……なんだ」

馬頭丸の言葉に、牛頭丸は更に顔を赤くして怒ったが、しかし最後の方はごにょごにょと何を言っているのかわからないくらい小さな声になってしまった

「て、いうか何でお前がここにいるんだよ」

牛頭丸はバツが悪そうにゴホンと一つ咳払いすると話題を変えてきた

その言葉にリクオも馬頭丸を仰ぎ見る

「え〜だって僕、若頭の補佐役だもん」

牛頭丸が心配で付いて来たのさ〜、とさも当前のように答えてきた

その言葉に



ゴゴゴゴゴゴゴゴ



牛頭丸の背後に、なにやら真っ黒な暗雲が渦巻いてきた

「め〜〜ず〜〜ま〜〜る〜〜!!」



ピシャーーーーーン



次の瞬間、牛頭丸の雷が馬頭丸に直撃した

「うわ〜んごめんなさ〜い」

「ふっざけんな!そんな理由で付いて来てあんな事言ってんじゃねぇぇ〜〜」

ドッタンバッタンと追いかけごっこが始まってしまった牛鬼組の二人に、リクオははぁと盛大な溜息を零すのだった


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