「ん・・・」

つららの苦しそうな声に、はっと我に返る

慌てて唇を離すと、はぁ、はぁ、と頬を染めて荒い息を吐くつららが目に飛び込んできた

しまった、とリクオは内心舌打ちした

つい我を忘れてつららの気持ちも考えずに突っ走ってしまった

これではあの男と同じではないかとリクオは焦った

恐る恐るつららを見ると――



頬を染め恥ずかしそうにもじもじとするつららの姿があった

その凶悪なほど可愛らしい仕草にリクオは思わず視線を逸らす



やべえ、このままだと・・・・



本当に襲い兼ねない

リクオはそろそろ部屋を出たほうが良いと判断し、重い腰を上げるべくつららに向き直った

「そ、そろそろ部屋帰るわ」

「え、あ・・・は・・・い」

リクオの言葉につららは何故か悲しそうな顔で視線を落とす

その仕草にリクオは裾を引っ張られたような気分になりまたその場に座り直してしまった

「どうした?」

このまま帰っては後で後悔する、と心の奥で何やら囁く声があった

その声に忠実に従いながらリクオはつららの顔を覗き見る

「あ、いいえ・・・別に」

言葉とは裏腹につららはリクオの顔をちらちらと伺いながら何か言いたそうな顔をしていた

その表情にリクオは内心首を傾げていたが

つららの仕草を見て何かピンときた



手で中心を隠しながらもじもじと忙しなく動く体

頬を上気させた憂い顔で恥ずかしそうに瞳を伏せてはちらり、ちらりと己を見上げてくる視線

何か言いたそうに、でも唇を戦慄かせては何度も引き結ぶを繰り返すその仕草



鈍いリクオでも気づいた

これは・・・・



もしかして?



リクオはある答えに励まされながらつららの手を握ってみた

「ひゃんっ!」

突然驚いたような声を上げる

じっとその顔を見つめながらリクオは更に手を進めた

ゆっくりと掌を合わせ握り締めてみる

すると、躊躇いがちにきゅっと握り返してきた

顔はまだ俯いたままだったが手に伝わる汗ばんだ熱に、つららが異常なくらい緊張していることが伝わってきた

そして――



とん



繋いだ手を引き己の胸につららを招き入れた

「怖いのか?」

何がとも何をとも聞かない

しかしつららは小さな声で「はい」と頷いた

リクオは「そうか」と囁くと更に強くつららを抱き締めた

その抱擁につららはほうっと安堵の息を漏らすとリクオの胸に体重を預けてきた

その重みが心地良くてさらに強く抱き締める

暫くの間二人はそのまま抱き合い続けた



暫く抱きしめていたリクオだったがぽつり、と突然呟いてきた

「どうして欲しい?」

「え?」

主の言葉につららは驚いて顔を上げた

真っ直ぐ見上げる黄金螺旋のその瞳を捉えながらリクオはまた囁く

「恐がらせちまった侘びだ、今日はお前の好きなようにしていいぜ」

「え、え?あ、あの・・・それは・・・」



どういう意味ですか?



見上げてくるその視線は何かを期待しているようで

しかしその逆に何かを恐れているようで

期待と不安に揺れる瞳を見下ろしながら、リクオは口の端を吊り上げると意地悪そうに耳元で囁いてきた

「だから、お前の好きにしていいんだぜ?」



この俺を



途端つららはボッと音を出して真っ赤に染まってしまった

「な、な、な!?」

「いいぜ、さっき色々触っちまったからな」

ほら、と手を広げて自身を差し出してくるリクオにつららはあわあわと慌てふためく

「そ、そそそそそんな・・・・」

できません!と涙目になってふるふると首を振る可愛らしい側近に、リクオも段々と悪戯心を刺激されていった



ほんのちょっと、そうほんのちょっとだけ先に進みたい



リクオはつららとの関係をこれ以上のものにしたいと以前から思っていた

だからだろうか、ほんのちょっとだけリクオの本音がつい出てしまったのだ

「お前なら何されても構わないぜ」

誘うようなその殺し文句に、つららはとうとう



ぷっつんした



「で、では・・・・」

つららは大きな瞳をぐるぐる回してリクオの着流しの合わせに手をかけてきた

どうするつもりだろうと、リクオがしたり顔でつららの行動を見守っていると



するり



「おっ」

つららは何を思ったのかリクオの上半身を肌蹴させた

その大胆な行動にリクオは半分驚きながら半分嬉しそうににやりと笑った


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