「暇じゃのう・・・」
雪女の長は一人広い屋敷の中でつまらなさそうに呟いていた
ふと、愛しい孫の顔が脳裏を過ぎる
「今頃どうしているのかのう・・・ふむ」
女は何事かを思いつくと、細くしなやかな指先で円を描くと何も無い空間に氷の鏡が出現した


氷面鏡


女が得意とする妖術の一つだ
これは遠く離れた映像を映し出してくれる
女が鏡の前に手をかざすと目的の映像が映し出された
暫くその様子を見ていた女だったが、突然食い入るように鏡を凝視しだした
「ほお・・・」
女は興味津々な顔つきになると、徐にすくっと立ち上がり鏡に向かってにやりと笑んだ
「面白そうじゃな」
その顔は悪戯を思いついた童子のような顔をしていた





「リクオ様〜学校に行く時間ですよ〜」
清々しい晴れやかな朝
側近であるつららの声が長い廊下に響いてきた
「あ、もうそんな時間?じゃあ行こうか」
リクオは手早く身支度を済ませ、玄関で待っているつららと青田坊と共に学校へ向かった
学校へ到着すると、何やら3年生の教室が騒然としていた
聞く所によると、どうやら転校生が来るらしい
新しい学び舎の新顔に生徒達は浮き足立っていた
「男の子かな?」
「可愛い娘がいいな〜」
などと誰が来るのか話はそれで持ちきりだった
そんな話を聞いたリクオ達は――
「転校生は3年生だそうですね」
「うん、僕達には関係ないね」
「ささ、若ホームルームが始まってしまいますぞ、急ぎましょう」
学年の違う転校生の事は別段それ以上興味も沸かなかったので、リクオは側近に促されるまま教室へと急ぐことにした
暫くして、朝のホームルームが始まった3年生の教室では、艶やかな微笑と共に自己紹介をする転校生の姿があった


「はじめまして、及川ユキと言います」
放課後、清十字探偵団の会議に少々遅れて来たリクオ達は、目の前で挨拶する人物を見て固まった
「へ?及・・・川?」
「あ・・・あの」
目の前でにこにこ笑う”彼”は、あの噂の転校生だった
白に近い浅葱色の短い髪
陶器のような白い肌
切れ長の目
身長はすらりと高くまるでモデルのようだ
しかもその顔つきが、どことなく良く知る人物によく似ていた
リクオは隣で同じように驚いているつららを振り返った


似てる!


髪の色は違ったが、顔の作りは酷似していた
ただ、つららの大きな瞳とは違い、彼のは切れ長で少々鋭い感じである
まるで――
つららが敵を目の前にした時の、あの睨み据えた時の目に似ていた
つららがもし男だったらこんな感じの美男子だったかも知れない
リクオは呆然とする頭の中でそんな事を考えていた
及川ユキと名乗った転校生はにこにこと笑顔を絶やす事無くリクオ達の下へ近づくと握手を求めてきた
リクオは求められるがまま握手をする
とその時――
転校生がすっとリクオの耳元に小さく耳打ちした
「これから世話になるぞ」
くすりと笑いながら耳元で囁いてきたその声は――
紛れも無いあの”女”の声だった
がばっとリクオは思わず転校生の顔を見上げた
及川ユキは何事も無かったようににこにこと微笑んでいる
そして、リクオの隣で先程の囁きを聴いてしまい同じように目を見開いているつららに視線を移すと
「久しぶりだねつらら」
と、嬉しそうに微笑んだ
その一言を後ろで新人が入ったと喜ぶ清継の話を聞いていた巻と鳥居が聞き逃さなかった
「え、何々?及川さんてもしかして・・・」
「はい、兄妹です」
「「兄妹ぃぃぃぃ!?」」
巻と鳥居の言葉に及川ユキが照れ臭そうに答えると、島とリクオが同時に叫んだ
つららも思わず叫びそうになったがなんとか堪えることに成功した
「ん?知らなかったのかい?」
ただ一人、訳知り顔の清継だけが涼しい顔をしている
なんでリクオ君も?と怪訝な顔をするカナを尻目に、及川ユキが話し出した
「僕、昔から体が弱くて病気がちで、ずっと外国の病院に入院していたんです。でも先月やっと退院できて日本に帰って来れたんです」
そう言ってわざとらしくコホコホと咳き込むユキに、つららとリクオは自然にジト目になってしまった
どう見ても演技にしか見えないそれだが、二人を除いた十字団の部員はうまく騙されてしまったらしい
「大丈夫かい?」
「無理しちゃダメだからね?」
「何かあったら私達に言って!」
ふらつくユキを囲むように清継や巻、鳥居、カナまでもが心配そうに声をかけている
「ありがとうみんな。妹のつららが心配で心配で、ここの部活にいると聞いて突然押しかけちゃったけど、僕も入部していいかな?」
そう言うとユキは儚そうな笑顔を向ける
その様はまるで天使のような微笑で、その場に居る誰もが魅了されてしまった
「もちろんだとも」
「大歓迎よ」
「仲良くやろ〜ぜ!」
みんなは、はにゃ〜んと顔を綻ばせてユキを歓迎した


「つ、つらら・・・」
「若・・・どうしましょう?」
目の前で繰り広げられる光景を離れた所から見ていたリクオとつららは、顔を見合わせながらとんでもない者が来てしまったと、途方に暮れていた


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